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| HOME | 2007.12.29 Sat『赤朽葉家の伝説』
私は普段、1冊の本を読むのにかなり時間を掛けるタイプで
最近では(歳のせいか)寝食をそっちのけで読み耽るということが少なくなってきたのですが この本は久しぶりに「どこまで読んだら寝ようか」と迷い 「あともう少し読みたい」と本を閉じるのをいつまでも躊躇するほど、引き込まれた読書でした。
あらすじ:舞台は鳥取県西部の紅緑村。 「山の民」に置き去られた赤ん坊が村の若夫婦に引き取られる。 この子はのちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、 赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、「わたし」の祖母である赤朽葉万葉だ。 ―「千里眼奥様」として赤朽葉家を仕切った祖母・万葉 ―中国地方を制するレディースの頭から漫画家に転じた母・毛毬 ―そしてニートの「わたし」・瞳子。 高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、 鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈が 「わたし」の目を通して語られる。 (出版社/著者からの内容紹介を一部修正) 昭和とも思えないくらいの古めかしさと神秘に満ちた第1章は、 千里眼・・・つまり未来視ができるという万葉の 一風変わった少女時代、そして赤朽葉家へ輿入れした後のお話。 万葉の義理の母となる、赤朽葉家の大奥様・タツや かつては万葉を苛め、のちに深い絆で結ばれることになる黒菱みどりなど 登場する女性陣がことごとく強烈で一気に釘付けになりました。 また、幼い頃の万葉が見た「一つ目の男」豊寿との運命的な出会い、 そして出産時に万葉が未来視してしまう長男・泪(なみだ)の生涯も 続く2つの章に繋がっていて、すごくドラマティック。 私はこの万葉のお話がいちばん好きだったかもしれません。 そして、第2章では万葉の長女・毛毬が主役となります。 小さい頃から気性が激しく、思春期になるとばりばりの不良娘(死語?)となった毛毬。 確かamazonのレビューかなんかで 毛毬の時代はかつての大映ドラマのようだ・・・とかなんとかあったけど、 すごく的を射た例えだと思います(笑)。昭和の香りがぷんぷんです。 向かうところ敵ナシの破天荒ぶり(だって中国地方のレディース制圧ですよ!) 女同士の友情と裏切り、果ては誰もが驚く圧巻のサクセスストーリー。 誰からも注目され、駆け抜けるように過ぎていった毛毬という女性の派手な生涯と その一方で、父親が妾に産ませた腹違いの地味な妹との因縁という ちょっとホラーめいた怖さもあり、こちらもものすごいインパクトでした。 第3章は現代っ子の瞳子。毛毬のひとり娘、万葉の孫です。 ここからは一転して、祖母・万葉が今際に残した言葉に隠された謎を 瞳子が追いかけるというミステリー調になります。 高度経済成長もバブル経済も知らず、自分のやりたいことも見えない・・・ そんな瞳子は、3人の女性の中でやはりいちばん私自身の感覚に近いかな。 瞳子自身も「私には語るべき物語なんてなにもない」と言うように、 確かに、この第3章では大きな事件も起きませんし、母や祖母の数々の逸話を前に 失速しているという印象は否めません。 けれど、よく考えてみればそれも当たり前なのかもしれない。 だって、昔話というのは総じて「強い」ものなのですから。 過去の思い出というのは段々と美化されるし、 それは人づてに語り継がれるうちに誇張され、脚色されるのだから 瞳子が生きる“今”が、昔の“伝説”に霞んでしまうとしても それは仕方がないことだと私は思えた。 そういう遠近感みたいながこの作品の巧いところだと思うし、 赤朽葉家の過去ばかりを見ていた瞳子が万葉の残した謎を解明して、 その過去から受け取ったものといっしょにこれからの未来を生きていく という着地点は清々しいと思いました。 本筋の合い間に突如として、実際の戦後昭和史(その時々に起きた事件や世相) が書き連ねられ、そこは賛否が分かれるみたいだけど、私個人としては 万葉の時代、毛毬の時代、そして瞳子の生きる現代では 「女性」が何を思い、どのように生きていくことを正しいとされていたのか という精神的背景や価値観を浮き立たせてくれる効果を感じました。 桜庭さんの作品はこれが初めてだったのですが、 古めかしいのだか新しいのだか、よく分からない不思議な雰囲気と ブレることなく骨太な物語を紡いでいける筆力をすごく感じました。 ひとことで言うとすごく「エネルギッシュ」な作品だった。 今後も楽しみに追いかけたい作家さんがまた一人増えました。 (2007年12月29日読了/☆5)
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