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「 2007年12月 」 の記事一覧
『赤朽葉家の伝説』
私は普段、1冊の本を読むのにかなり時間を掛けるタイプで
最近では(歳のせいか)寝食をそっちのけで読み耽るということが少なくなってきたのですが この本は久しぶりに「どこまで読んだら寝ようか」と迷い 「あともう少し読みたい」と本を閉じるのをいつまでも躊躇するほど、引き込まれた読書でした。
あらすじ:舞台は鳥取県西部の紅緑村。 「山の民」に置き去られた赤ん坊が村の若夫婦に引き取られる。 この子はのちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、 赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、「わたし」の祖母である赤朽葉万葉だ。 ―「千里眼奥様」として赤朽葉家を仕切った祖母・万葉 ―中国地方を制するレディースの頭から漫画家に転じた母・毛毬 ―そしてニートの「わたし」・瞳子。 高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、 鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈が 「わたし」の目を通して語られる。 (出版社/著者からの内容紹介を一部修正) 昭和とも思えないくらいの古めかしさと神秘に満ちた第1章は、 千里眼・・・つまり未来視ができるという万葉の 一風変わった少女時代、そして赤朽葉家へ輿入れした後のお話。 万葉の義理の母となる、赤朽葉家の大奥様・タツや かつては万葉を苛め、のちに深い絆で結ばれることになる黒菱みどりなど 登場する女性陣がことごとく強烈で一気に釘付けになりました。 また、幼い頃の万葉が見た「一つ目の男」豊寿との運命的な出会い、 そして出産時に万葉が未来視してしまう長男・泪(なみだ)の生涯も 続く2つの章に繋がっていて、すごくドラマティック。 私はこの万葉のお話がいちばん好きだったかもしれません。 そして、第2章では万葉の長女・毛毬が主役となります。 小さい頃から気性が激しく、思春期になるとばりばりの不良娘(死語?)となった毛毬。 確かamazonのレビューかなんかで 毛毬の時代はかつての大映ドラマのようだ・・・とかなんとかあったけど、 すごく的を射た例えだと思います(笑)。昭和の香りがぷんぷんです。 向かうところ敵ナシの破天荒ぶり(だって中国地方のレディース制圧ですよ!) 女同士の友情と裏切り、果ては誰もが驚く圧巻のサクセスストーリー。 誰からも注目され、駆け抜けるように過ぎていった毛毬という女性の派手な生涯と その一方で、父親が妾に産ませた腹違いの地味な妹との因縁という ちょっとホラーめいた怖さもあり、こちらもものすごいインパクトでした。 第3章は現代っ子の瞳子。毛毬のひとり娘、万葉の孫です。 ここからは一転して、祖母・万葉が今際に残した言葉に隠された謎を 瞳子が追いかけるというミステリー調になります。 高度経済成長もバブル経済も知らず、自分のやりたいことも見えない・・・ そんな瞳子は、3人の女性の中でやはりいちばん私自身の感覚に近いかな。 瞳子自身も「私には語るべき物語なんてなにもない」と言うように、 確かに、この第3章では大きな事件も起きませんし、母や祖母の数々の逸話を前に 失速しているという印象は否めません。 けれど、よく考えてみればそれも当たり前なのかもしれない。 だって、昔話というのは総じて「強い」ものなのですから。 過去の思い出というのは段々と美化されるし、 それは人づてに語り継がれるうちに誇張され、脚色されるのだから 瞳子が生きる“今”が、昔の“伝説”に霞んでしまうとしても それは仕方がないことだと私は思えた。 そういう遠近感みたいながこの作品の巧いところだと思うし、 赤朽葉家の過去ばかりを見ていた瞳子が万葉の残した謎を解明して、 その過去から受け取ったものといっしょにこれからの未来を生きていく という着地点は清々しいと思いました。 本筋の合い間に突如として、実際の戦後昭和史(その時々に起きた事件や世相) が書き連ねられ、そこは賛否が分かれるみたいだけど、私個人としては 万葉の時代、毛毬の時代、そして瞳子の生きる現代では 「女性」が何を思い、どのように生きていくことを正しいとされていたのか という精神的背景や価値観を浮き立たせてくれる効果を感じました。 桜庭さんの作品はこれが初めてだったのですが、 古めかしいのだか新しいのだか、よく分からない不思議な雰囲気と ブレることなく骨太な物語を紡いでいける筆力をすごく感じました。 ひとことで言うとすごく「エネルギッシュ」な作品だった。 今後も楽しみに追いかけたい作家さんがまた一人増えました。 (2007年12月29日読了/☆5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『有頂天家族』
これまでに発表されている森見作品と同様、この作品も例に漏れず舞台は京都。
しかし人間界の話じゃあございません。 主人公は狸。身を寄せ合って健気に生きる狸の家族と 彼らを取り巻く天狗と人間の織り成す荒唐無稽な物語。
あらすじ:狸界の頭領として名を馳せた偉大な父を亡くし、 優しい母を守るように糺ノ森でひっそりと暮らしている下鴨家の4兄弟。 三男・矢三郎は、父の盟友であり兄弟の師匠でもあるかつての大天狗 (今は老いぼれて引きこもっている)赤玉先生の世話を焼きつつ 赤玉先生が見初めて一人前の天狗に育てあげた絶世の美女・弁天が気になっている。 しかし弁天は、忘年会で狸を鍋にして喰らうという慣わしを持つ 憎き秘密結社「金曜倶楽部」の一員であり、父の天敵でもあったのだった。 勇敢かつ賢明で数多くの武勇伝をもつ父が なぜ金曜倶楽部に捕らわれ、鍋に入れられてしまったのか。 父の実弟であり、下鴨家とは仲違いしている大狸・夷川早雲と 下鴨家の長男・矢一郎、どちらが新しい頭領の座に就くのか。 この2つを軸に、数々のエピソードが色んなところで繋がりを持っていきます。 そして、無敵の森見ワールド全開!!! 狸たちも愛飲する門外不出の名酒・偽電気ブランをはじめ、 赤玉ポートワインを燃料にして空を飛ぶお座敷、 扇ぐだけで猛烈な風雷を巻き起こすという扇、父の形見の電動人力車、 そして次男・矢二郎が化ける偽叡山電車で洛中を駆け抜けるくだり等々 宮崎アニメを見てるみたいな色彩豊かな情景が頭の中に広がって、 読んでいると知らず知らずに顔がほころんでいきます。 何が起きても「阿呆の血のしからしむるところ」なのです! 4兄弟のキャラクターもすごくいいです。 長男・矢一郎は度量は小さいけれど真面目で堅実、 次男・矢次郎は父の死を境に蛙に化けたまま井戸に引きこもり、 三男・矢三郎は化術に長けていて好奇心旺盛、 そしてまだ幼い四男・矢四郎は気が弱くてすぐに尾尻を出す臆病者。 1人(いや1匹)ずつでは偉大な父の足元にも及ばないけど、 4匹が揃った時の結束力と、母を中心に互いを大切に想いあう気持ちは温かく、 まさに“かくも毛深き家族愛”がたっぷり。 矢二郎が蛙になったまま戻れない理由なんかはちょっと切なくなったりもしました。 あと個人的には、お母さんがタカラヅカファンで、 人間に化ける時は必ず黒服の美青年ってところがかなりツボでした! ・・・是非お会いしてみたいっ(笑) 他にも、何かにつけて下鴨家に嫌がらせをする夷川家の金閣・銀閣兄弟や 口は悪いがいつも影から助けてくれる矢三郎の元許婚・海星、 金曜倶楽部の一員でありながら、狸をこよなく愛し、母の命の恩人でもある淀川教授など キャラクターがとにかく多彩で、とてもとても楽しく読めます。 好きだから食べちゃうという人間と、 どうせ食べられるなら美味しく食べてもらいたいという狸のそれぞれの心理。 そこにある不条理を決して悲しく見せずに、きちんと消化させているのが見事でした。 弁天や海星のオンナゴコロも実はそこかしこに見え隠れしてて そういうところもただのハチャメチャなファンタジーとは一線を画していて良かったです。 もちろん最後はこう叫んでおきましょう。 「面白きことはよきことなり!」 (2007年12月25日読了/☆4.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『でかい月だな』
読み終えた後、私の心の中に尾崎豊が流れましたです。
「僕が僕であるために〜勝ち続けなきゃならない」と。 傷つくことに臆病なくせに、傷つけることには麻痺している思春期世代の いろんな側面がたくさん詰まった、やるせなさと爽やかさを感じさせる作品。
あらすじ:主人公の幸彦(ユキ)は中学2年生。 美しい満月の夜、親友だと思っていた綾瀬に、突然崖から蹴り落とされる。 命は取り留めたものの、右足に大怪我をしてしまい、大好きだったバスケをできない体になる。 怒り戸惑う家族や周囲をよそに、気丈に振る舞って日常生活に戻るユキだが 彼の心にはポッカリ穴が開いたままだった・・・。 そんなユキの前に、二人の変人科学オタクの秀才・中川と 邪眼を持つオカルト少女・かごめ、そして「やつら」が現れて―。 親友に崖から蹴り落とされる・・・なんていう ものすごくショッキングな出来事で幕を開ける本書ですが、 暗くてドロドロした、重たーい展開にはなりません。 それは、この歳の男の子がこんなに強いものなんだろうかと訝しく感じるほど 気丈に日々を過ごすユキがそうさせるのだけれど、 やがて、心に圧し掛かる重さに彼自身が気付かないフリをしていたかったのだ、 と知ることになります。 ユキは賢くてひねくれたところのない、まっすぐな男の子だけど その分だけ「自分に非は無かったのか」「どうして綾瀬は何も言わずにあんなことをしたのか」 と深く考え続けてしまう。 憎んでしまえればラクなのに、憎むことができない。怒りの持って行き場が見つからない。 そんな自分に押しつぶされそうになる脆さと必死に戦う。 その姿が何だかリアルで、ああそうだよなーそういうものなんだろうなーと すごく感情移入できました。 あらすじに書いた「やつら」というのは そんなユキの心の弱い部分が見せるものの象徴として表れる、ややSF的要素なのですが うーーん、私はここにあまり力を入れなくても良かったのではないかという気がします。 (ラストでユキが綾瀬に会いに行くきっかけとして その「やつら」の存在があるのでまあ全否定できないんですが・・・) ユキが復学して出会う中川君という男の子やかごめちゃんという女の子のキャラクターが すごくよく立っているので、彼らとのやり取りを通じてユキが変化していく部分とか 綾瀬との決着に向けてユキの心が揺れる部分だとか、 それだけでもじゅうぶん読ませられたのではないかな・・・。 特に良かったのが中川君の存在。 科学という揺るぎようのない世界に没頭しながら、 すごく非現実的なことに真面目に取り組む彼のひと言ひと言が ユキの心の隙間というか波長にピッタリはまっていく様子が心地よかった。 何かを否定することは簡単だけど、ちゃんと受け止めて信じてみればいいんだよって ユキや私たちに教えてくれているような気がした。 キャベツでバスケをするシーンなんてジーンとしました。中川君、立派すぎるー。(萌え) そしてラスト。 今まで目を背けていたものに自分でケリをつけたユキ、 2人とって決して消すことのできないもの、 綾瀬が一生背負い続けなければならないものを認めた上で これから先のことを見据えるその様はまさに 「正しいものは何なのか それがこの胸に解るまで」と叫ぶ 尾崎の歌の世界のようでありました。(もちろん、いい意味でね) 私たちより下の世代に読んでみてほしい、佳作だと思います。 (2007年12月12日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『小袖日記』
本筋とは関係ないところからで申し訳ないんですが、
私、一人称を「あたし」と書く文章が、実は苦手でして・・・。 幼い子供が言うのはともかく、ある程度の年齢から上の人が使うと 女であることの自意識の強さを感じるというか、 なんとなく相容れないものがあるんですよね。 だからかなぁ・・・最後まで「小袖」=「あたし」に気持ちが乗らなかったのは・・・。
あらすじ:不倫に破れ、生きる気力をなくした29歳の「あたし」は 失意のまま街を彷徨っていたところ雷に打たれ、突如、平安時代へタイムスリップしてしまう。 気が付くと、「小袖」という17歳の女性の体と入れ替わっていた。 小袖は中宮彰子の教育係である香子さまの元で働く女官なのだが、 なんと香子さまこそがあの『源氏物語』を執筆中「紫式部」であるらしい・・・。 香子さまの片腕となって取材するうち、 「あたし」は源氏物語のモチーフとなった事件の意外な真相に触れることになる。 『源氏物語』は古典の授業で少し齧った程度で 現代語訳をきちんと全編読んだことないし、あらすじも大まかにしか知りません。 この小説では、『源氏物語』の有名な章をまったく別の筋立てで描いていくので、 (それを香子さまが脚色して、本来の『源氏物語』に執筆しなおすという形) 本物をちゃんと読んでおいたらもっと面白かったのかなーと思います。 逆に言うと、本家の『源氏物語』を読んでみたいという気持ちにさせられたことが この本を読んでのいちばんの収穫だった気がします。 タイムスリップという使い古された手法はともかくとして、 平安時代の立ち振る舞いや言葉遣いをカラダが覚えていたりとか タイムスリップしてきた人がもう1人出現したりとか そのことを香子さまがいち早く理解してくれたりとか ずーっと「小袖」にとって都合のいい展開が続くのが気になりました、 こんな特殊な設定なのに、主人公にとってのいわゆる“ピンチ”な場面がまったくないんですよね。 だからハラハラドキドキ感がなくて、そういうところがちょっと手抜きかなーという感は否めず。 まあ、この作品のいちばんのポイントはかの有名な『源氏物語』を どのように調理して違うストーリーを仕立てるか、という点だと思うし その部分は歯切れよく、独自性もあったので面白く、楽しく読めました。 香子さま=紫式部が非常に聡明でユーモアに溢れる素敵な女性として描かれていて 作品の中で小袖に語る言葉も温かく、2人の信頼関係はすごく微笑ましかったです。 ただ、現代では不倫に破れて自暴自棄だった「あたし」が 平安時代の女性の強さを垣間見て、女の幸せとは何かを考える!みたいな説得力はなく、 あくまでも親しみやすさ重視というか、軽い読み物として及第点という感じです。 最後に、この本は装丁の絵がすごく可愛い! 実はそれが、私がこの本を手にした理由でありました(笑) (2007年12月5日読了/☆3)
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