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「 2007年09月 」 の記事一覧
『卵の緒』
表題作『卵の緒』と『7's blood』の2つの中編が収められています。 どちらも甲乙つけ難いほど良かったです。 * * * * * 『卵の緒』 自分は捨て子なんじゃないか?と疑っている小学4年生の育生。 出生の話になると、まわりの大人がどうも要領を得ないからだ。 「へその緒を見せて」と言うと、「育生は卵から生まれたんだよ」なんて暢気に答える母。 幸せに穏やかに暮らす2人の暮らしを軸に、育生の出生の秘密が明かされる。 『7's blood』 父親が愛人に産ませた腹違いの弟を母親が引き取ることに。 やってきた弟(七生)は聡明で、家事もちゃんとこなし、誰からも好かれる良い子なんだけど、 姉の七子には七生が周りの顔色を伺いながら必死に立ち回っているように見える。 そんな中、母が入院し、姉弟2人だけの暮らしが始まることになり・・・。 * * * * * この2つのストーリーのテーマは“家族”。 血が繋がってるとか繋がってないとか、そういうことじゃなくて "すっと一緒にいること"、そしてそのことを“幸福だと感じること”が根底にある気がしました。 『卵の緒』では、血のつながりのない母子関係に、 母のボーイフレンドまで登場しちゃったりして 昼ドラみたいにドロドロしてもおかしくないような設定なんだけど 不思議なほどにまったく重くならないし、暗くもない。むしろホワンと軽くて、温かい。 それは、自分の愛情にすごく正直なこのお母さんが まっすぐにあっけらかんと真実と今の気持ちを育生に伝えるからに他なりません。 血のつながりだけではない絆もある。 お互いを想う愛情もたくさんある。だからそれでいいんだよって。 本当は複雑な関係なのに、伝えることはすごくシンプルで、だからこそ心に響きました。 『7's blood』は、逆に血縁だけが持つ不思議な呼応が描かれていきます。 他人のような家族のような、何とも言えないぎこちなさから始まり、 ぶつかり合って、殻を破って、一緒にいるのがだんだん自然になっていく姉弟の描写が巧い。 特にお姉さんの七子の葛藤がリアルで、 ―弟に興味のないフリをしてるけど実は気になってたまらない感じとか 七生に素直にぶつかっていけない自分がイヤになっちゃう感じとか― ラストでお母さんが何故愛人の子である七生を引き取ったかが明らかになるところも含めて じんわりと七子の気持ちに寄り添える流れがすごく良かったです。 瀬尾まいこさんの作品は静かで心地いい。常に凪いでいる。 だけどしっかりドラマがあるんですよね。 サラっと読めるのに、後からじわーっと心に残る感覚を今回もしっかり味わいました。 (2007年9月18日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『中庭の出来事』
あらすじ:瀟洒なホテルの中庭。 こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。 周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。自殺?それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。(「MARC」データベースより) いやーこんなにもあらすじの書きにくい本、なかなかお目にかかれないのでは? どこからどこまでが現実のストーリーで、どこからどこまでが劇中劇なのか 途中から完全に分からなくなってしまいました。 そして、気になった場面を探して引き返すのがまた至難の業。 メモを取りながら読めば良かったと途中で思いましたが、何だかそれも不粋な気がするし 「あ!この場面、前にどこかで見たんじゃなかったっけ・・・」というデジャビュ状態が 読んでいる間ずーっと続いていく感じです。 そもそもパーティーは実際のものじゃなくてオーディションの一環? ヒロイン候補である3人の女優の語りは、供述じゃなくて芝居の台詞? 大きい箱を開けたらまたその中に中ぐらいの箱が入ってて、 その箱を開けたらまた小さな箱があって しかも小さいと思った箱が角度によっては大きな箱と同じ大きさに見えた・・・みたいな。 なんというか、こんなワケわかんない感想しか書きようのない(笑)実験的な小説でございました。 もしも時系列にピシっと並べていったら、ズレや矛盾があるのかもしれないけど それを穿り返すことこそ野暮というもの。 話が錯綜しても、その流れに身を委ねて、読み進めていくしかないと思います。 根っこから理解してやろうというのは無理かもしれない。そう思っていた方がいいです、たぶん。 私も最初はページを繰るのにめちゃくちゃ時間がかかりましたが、 読み終えたときは、読み終えた自分に満足しましたもの(笑) わかんない、わかんないと読者を惑わせるのが恩田さんの企みだとしたら 今回はまんまとしてヤラれた感があります。 でもこの作品、私は嫌いじゃないです。 きっちり謎が解けて終わるような小説じゃないですけど、 この独特の余韻って他の作家さんには出せない気がしています。 (2007年9月23日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『映画篇』
どうしてこの人の書く物語はいつも私の心をギュっと掴んで離さないのだろう。
実は、ちょうどこの本を読んだ日にツライことがあって、感傷的になりかけてたけど 本の世界にどっぷり浸って、 鼻をグズグズ言わせながら泣いて、 読み終えたら、笑っていました。 金城さんと、愛すべき登場人物たちに感謝したい気持ちです。 今回の作品はタイトル通り、ずばり映画をモチーフにした物語。 古今東西の5本の映画タイトルがそのままつけられた、5つの中編小説集です。 私はまったく映画(特に洋画)に精通してなくて、これらの映画をどれひとつ観ていません。 そしてこの作品には、この5本以外にもなんと96本もの映画が作中に登場しますが、 やはり私が観たことのある作品はごく僅かでした・・・。 それでもまったく問題なく楽しく読めました。 * * * * * 『太陽がいっぱい』 新進作家となった主人公は、朝鮮人学校の同級生と再会し 当時の親友・龍一と映画を観ては語り合った日々を思い出す。 まったく違う道を選んだ2人はある日再会するが・・・。 『ドラゴン怒りの鉄拳』 自宅で突然夫に自殺され、それ以来引きこもっていた女性が 夫が借りたままのレンタルビデオがあると知り、返却のためにやむを得ず久しぶりに外出する。 そこで働く青年との交流により心を取り戻した女性が、夫の自殺の真相に立ち向かう・・・。 『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルーロマンス』 ろくに話したこともない隣の席の女の子から「好きな映画は何?」と聞かれた主人公。 少しずつ打ち解けていった彼女から、ある大きな計画を打ち明けられ いつの間にかその計画の片棒を担ぐことになり・・・。 『ペイルライダー』 クラスメイトに囲まれ難癖をつけられていた小学生の男の子が黒ずくめのライダー助けられる。 ヘルメットを取ると、それはパンチパーマで5頭身のおばちゃんだった。 お互いの哀しみを埋めるように、バイクで小さな旅をする2人。そしておばちゃんの正体とは・・・。 『愛の泉』 おじいちゃんの一周忌に集まった鳥越家の5人の従兄弟たち。 大好きなおばあちゃんにいつもの元気がないことを心配し、 2人が初デートの時に観たという思い出の映画を上映して元気づけようと企画を進める・・・。 * * * * * ※ここから少しネタバレかも(未読の方はご注意を!) 5篇のストーリーを繋いでいるのが 区民会館でおこなわれる『ローマの休日』上映会。 最後の『愛の泉』で5人の孫たちが企画しているのがまさにそれ!といった仕掛けです。 それぞれの登場人物たちにとって、この上映会が 一生忘れられないような大切な思い出になるんだろうなぁというエピソードが 全篇にたくさん散りばめられています。 他にも、『ドラゴン怒りの鉄拳』で出てくるレンタルビデオ屋さんとか つまらないフランス映画とか、区民会館周辺を散歩しているブルテリアとか、 微笑ましいリンクが盛りだくさんです。 『太陽がいっぱい』は男同士の友情、朝鮮人学校の描写やブルース・リーへの憧れ、 そして『ペイルライダー』はハードボイルド的(体を鍛え上げてからの)復讐劇、 これらは従来の金城作品のモチーフで、持ち味が出ていたと思う作品。 『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルーロマンス』は 恋とも友情ともつかない、高校生の微妙な距離感みたいなのが描かれていて新鮮でした。 『ドラゴン怒りの鉄拳』は、大げさに言えば人が映画を創る意味、そして映画を観ることの意味 みたいなものが描かれていたという気がします。 芸術性とか思想とかそういうんじゃなくて、ただ人を笑わせたりスカっとさせたりホっとさせたり そういう単純さも映画の醍醐味なんだよなって改めて気付かされたような。 レンタルビデオ屋で働く青年が撮った自主映画もすごく面白そうでした。 しかし何と言っても私がいちばん好きだったのは、最後の『愛の泉』。 おばあちゃんが、おじいちゃんとの出会いや戦争体験を語るシーンでは涙させられ、 主人公の男の子(上映会準備を他の従兄弟たちから押し付けられる役)が 1人で奮闘する姿や個性的な従兄弟たちとの会話の応酬には何度も笑わされました。 (人が好くてちょっとおバカで憎めない、でもちゃんと自分の意志をもった男の子を描いたら 金城さんの右に出る人はいないんじゃないでしょうか) そして、この作品をラストにもってきた構成にも脱帽。 同じ時間に同じ場所で、それぞれの想いを胸に抱いて 登場人物たちが『ローマの休日』を観ているという光景を思い描くと、 それぞれの物語を読んだ後だからこそ、何倍も心が温かくなりました。 この本には、いや金城さんの作品にはいつも 大人になっても忘れちゃいけない大切な何かがたくさん詰まっています。 予定調和だっていいんです!いい話すぎるけどそれでもいいんです! 映画がそうであるように、笑わせてくれてスカっとさせてくれてホっとさせてくれる こういう小説こそが、私にとってずっと読み続けていきたいものなのです。 (2007年9月6日読了/☆5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『俳風三麗花』
何を隠そう、私の将来の夢は俳句を嗜むことなんです。 季節の移ろいや目に映ったものを、限られた字数で表現するという 潔さと滋味深さに昔からとても憧れております。 さて第137回直木賞候補作にもなったこの小説には、 とある句会に集う3人のうら若き女性が登場します。 良家の子女で真面目でおっとりしているちゑさん、 しっかり者でモダンガールの医学生・壽子さん、 明朗闊達でちゃきちゃきとした芸者の松太郎さん。 性格も境遇も異なる彼女たちが、俳句を通じて互いの感性を確認し合い友情を深めていく様子、 三人三様の恋模様、故人を偲ぶ思い等が、 見事なまでの俳句に乗せて大変上品に描かれていきます。 月に1度の句会は、主宰者である暮愁先生から2つのお題(季語)が出され それぞれが1つのお題につき1句ずつを提出。 詠んだ人の名を隠して発表し、いいと思ったもの3作に票を投じる (うち最高のものを「天」とする)というシステム。 票の入った句は代表者に読み上げられ、自分の句が読まれた時点で名乗りをあげ、 最後に全員で合評をおこないます。 句会には暮愁先生と3人の女性以外にも4人の男性がおり、 計8人の句が作中に挿入されているのですが、その俳句のひとつひとつに、 各人の持ち味や性格がきちんと反映されていて、これがもう何とも言えず素晴らしい! (例えば暮愁先生はちょっとトボケた味、壽子さんはハイカラ、という感じ) また、俳句を詠む際の手法についても多様で ちゑさんは詠みたい風景を思い起こして一句をじわじわ推敲していく人だし、 壽子はさん思いついた句を大量に書いてみて、絞っていくタイプ。 松太郎さんは直感で言葉を選び、暮愁先生は会が始まる前の雑談の中から即興で作ったりする。 他にも誰かに対する挨拶句だとかいただいた気持ちに対する返しの句だとか本当に色々あって あらためて俳句の世界の奥深さにウットリとしました。 新たに句会に入ってきたセクハラ野郎を、暮愁先生の機転でこらしめる第4章の痛快さや 人生の大きな転機を迎えようとしている暮愁先生の苦悩や 先生を慕うちゑさんの葛藤を描いた最終章の切なさ、 さらには松太郎さんや壽子さんの失恋なども絡めてあり、 1冊の中に漂う季節感とともに、とてもメリハリの効いた構成になっていたと思います。 初読みの、しかも直木賞候補になるまで全然知らなかった作家さんだけど この作品は本当に読んで良かったなぁと思います。 ちょっと高いけど、是非とも買って手元に置いておきたい! そして、私も暮愁先生に俳句を習いたい〜〜!! (2007年9月1日読了/☆4.5)
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