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「 2007年07月 」 の記事一覧
『空飛ぶタイヤ』
某自動車メーカー社製の大型トレーラーが走行中にタイヤの前輪が外れ、 歩道を歩いていた女性を直撃し死に至らしめたという事故―。 今から5年前のことになりますが、未だ私たちの記憶に鮮明です。 それだけ衝撃的で痛ましい事故でした。いや、事件でした。 この小説はその事件をモデルにした作品です。もちろんフィクションですが 財閥系大企業の裏側にある隠蔽体質、選民意識、保身、弱者軽視・・・ それらが引き起こした「リコール隠し」という 自動車メーカーとして絶対にあってはならない過ちを浮き彫りにした意欲作だと言えます。 ストーリーの軸となるのは、事故を起こしたトラックを所有する運送会社の赤松社長。 トラックの製造先であるホープ自動車による調査で 「脱輪の原因は運送会社の整備不良」という結果を出され、赤松運送は信用を失墜。 経営は傾き、社長自身も「業務上過失致死」という容疑で逮捕間近という窮地に追い込まれます。 が、社内の整備体制を調べれば調べるほど、会社側に落ち度はなく、納得がいかない・・・。 赤松社長は守るべき家族や社員、何の罪もない被害者と遺族のために 自らの手で真実を究明しようと立ち向かいます。 それに対して、まったく不誠実な対応しか見せないホープ自動車側。 有無を言わせない権力で会社を牛耳る常務取締役や 徹底的な事なかれ主義で事態をやり過ごそうとする幹部などが 社会的な「悪」として完全に書き分けられています。 しかしながら、必ずしも世間の常識は企業の常識とは一致しないのです。 ましてやそれが旧態に復した大企業であればあるほど・・・。 そうした矛盾に歯痒い思いをし、苛立ちを覚えますが、 社員や家族に逆に助けられながら頑張り続ける赤松社長の姿にはただただ感服します。 緻密でリアルな描写に最後まで手に汗握りながら一気に読み進めました。 形勢が逆転していくラストは痛快で、とても読み応えのある作品でした。 ひとりの命や多くの人々の安全よりも、 社名や肩書きや採算や体裁を守ることにばかり躍起になった結果として 引き起こされる事件・事故がここ最近後を絶ちません。 作中に「コンプライアンス(法令遵守)」という言葉がでてきますが、 世間から非難されないための盾としてではなく 消費者・利用者・視聴者など自社にとっての「客」を最優先にして 改めてその言葉の意味を考えてほしいものです。 責任をなすりつけ合い、駆け引きに翻弄されている人々の中で やり場の無い怒りや悲しみを一生抱え続けなくてはならない被害者や遺族を これ以上増やさないためにも。 (2007年7月31日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『花宵道中』
江戸の花街・吉原の小見世で逞しく生きる遊女たちの生き様、 そして彼女たちの決して叶わぬ一途な恋が丹念に描かれる五篇の連作短編集。 何よりもまず圧巻なのはその構成の緻密さ。 女郎・朝霧の恋の結末を描いた表題作「花宵道中」、 朝霧の姉女郎にあたる霧里と実弟の生い立ちを明かす「青花牡丹」。 そして朝霧が育てた妹女郎・八津の恋を綴った「十六夜時雨」 といった具合に、代々の遊女たちのドラマが交互に続き、息つく暇もなく魅せられます。 朝霧の恋の転機となった事件の真相が「青花牡丹」で明かされるといった仕掛けも実に見事です。 実はこの表題作は 「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作。 それだけに官能的で淫靡な場面ももちろんあるけれど、性描写のくどさはありません。 身体ひとつで生き抜く術として客に施す行為も、 真剣に愛した人と結ばれて交わる行為も、彼女たちにとってどちらも嘘ではなく、 その刹那に溢れる悦びや哀しみがエロチシズムよりも先に胸に迫ってくるから。 吉原の花たちは、恋に落ちてしまったその瞬間に散ることを覚悟します。 愛のために死ぬことを選ぶ者、生き抜くことを選ぶ者、 どちらも強い思いがみなぎっていて美しい。 愛する人に抱かれながらも“縋ってしまうから、優しくしないで”と願う遊女の切なさが ずっしりと胸に染みてくる秀作でした。 (2007年7月26日読了/☆4.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『ミミズクと夜の王』
正直に告白しますと、私は2回ほどこの本を読むのを挫折しかけました。 1回目は作品の冒頭。 ミミズクの言葉遣い(文体)が、すごく耳慣れなくて苦手な感じで戸惑いました。 「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」とただただ繰り返すミミズクの本意も分からなくて、 こんな日本語が続くのならもう読めない・・・と思った。 しかし、自分のことを「ミミズク」と名乗っているのが人間の少女だと途中で分かります。 そして彼女は、自分が人間であることさえも認めたくないほどの ひどい仕打ちを過去に受けていた―。 それらが明らかになるにつれ胸が痛み、悲しくなり、もう残酷すぎて読めない・・・と思った。 でも、そこを乗り越えると一気でした。 最後まで読んで本当に良かったです。 これは、人間としての命を捨てたくて森に逃げ込んだ少女(ミミズク)と、 その森を司る“夜の王”が出会う物語です。 今まで自分が生きてきた世界にはなかった静寂と 何も言わずにそばにいさせてくれる“夜の王”の包容力、そして優しさに触れたミミズクが 愛されることを知り、愛するものの無事を願い、自分にとっていちばん大切なものを選び取る。 ただそれだけの物語です。 ミミズクが抱えていた壮絶な過去と心の傷や 彼女が後に巡り合った人たちから受けた数々の愛情を思うと、それだけで 自分でも気付かぬうちに涙が勝手に溢れてきて、止められませんでした。 文章としては拙さを感じさせる部分も多いですが それ以上に「物語」として強いです。真っ直ぐ胸に響きます。 理屈じゃなく、小さい子供から大人まで是非読んでみてほしいです。 (2007年7月22日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『晩夏に捧ぐ 』
前作「配達あかずきん」(感想はコチラ)に続く、成風堂書店事件メモの第2弾は出張編。 しっかり者の書店員・杏子&勘の鋭いアルバイト店員・多絵のコンビが 長野の老舗書店で起きた幽霊騒動の謎に挑む、というストーリーです。 率直に言うと・・・読んでいてちょっとイライラしました。 今作は短編集だった前作よりも大きな事件(25年前の殺人事件)が関わっていて 登場人物もそれなりに多いので長編の構成も仕方がないとは思いますが、 関係者への事情聴取もコレと言って大きな展開はなく、 真犯人解明の布石となるエピソードも弱い。 今思い出そうとしても「あれ?結局誰が犯人だったんだっけ?」って思い出せない(汗)。 探偵役となる多絵ちゃんが何も考えてないんだかすごく深いことを考えているんだか どっちかよく分からない無邪気な雰囲気・・・というのは 「金田一少年の事件簿」のハジメちゃんぽくてまあアリかなと思いますが、 相棒であるはずの杏子さんのキャラクター(性格)とか方向性がどうにも掴みづらく、 2人を心から応援する気になれないのがすごく残念。 ただやはり前作同様、書店の描写はものすごくイイんですよ。 今回の事件の舞台となった「まるう堂」本店のこだわりも、息子が営む支店の近代的な雰囲気も 目に見えるようにイキイキと描かれているんです。書店好きとしてはたまらない! こんなにいい書店を幽霊騒動なんかでなくすわけにはいかない、という部分では 杏子さんにとても共感しました。 (2007年7月18日読了/☆3)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『ショートカット』
遠く離れた誰かに「会いたい」という気持ちを抱えた女の子たちが主人公の連作短編集。 片想い、遠距離恋愛、別れた恋人への未練、ひと目ぼれ―。 彼女(彼)らがその人に「会いたい」理由は様々だ。 遠くといっても大阪と東京。物理的には決して行けない距離じゃない。 でも色んな理屈をつけて躊躇ったり諦めたりを繰り返す、恋愛特有のあの気持ちが 繊細に綴られる。特別な事件があるわけじゃなく、1台のカメラで長回しするように 彼女たちのありふれた日常がただ淡々と綴られているのがまたリアル。 イマドキの若者の生活感や他人との距離の取り方がちゃんとすくい取ってある。 4編すべてに登場する“なかちゃん”という男の子がポイントになっていて (順番は前後するけど、実は彼の1日を追った短編集でもある) 東京にどうしても会いたい女性がいるという彼のパワーに感化され、 主人公の彼女たちが「会いたい」相手との本当の距離、 すなわち自分自身の心に素直になる瞬間が読んでいて気持ちいい。 会いたい人にはいつだって会いにいける。 時間も距離もお金も相手の都合も関係なく、ただ強く思って動けばいい。 ショートカットするボタンはいつだって自分の心の中にある。 (2007年7月11日読了/☆3.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『家日和』
家に帰れば家族は当たり前のようにそこに居る。 だけど、いつまでも変わらないと思ったら大間違いで、 何がキッカケで互いの距離や見方にヒビが入るかわからない、実は危ういものだと思う。 妻がネットオークションにハマったり、夫の勤め先が倒産したり、 別居した妻に家財道具一式を持ち出されたり、夫が勝手に転職したり、 家庭内ロハスブームが訪れたり・・・。 深刻さの程度に差こそあれ、実際の家庭で起きたらもっとずっとシビアだろうことが 奥田さんならでは洞察力と軽くコミカルなタッチで描かれています。 これらの出来事が、決してせかせかガミガミをこちらに押し付けるものではなくて 家庭における自分の立ち位置を確認したり、 家族の存在を見直したりする好転機として描かれているから、 私はすごく微笑ましいと感じたし、なんだかホっとしました。 とは言え、一定のリアリティは失ってなくて、妻の側にも夫の側にも 共感できる部分がちゃんと残っているあたりはさすがでした。 悪い面を見ようと思えばいくらでも見えてくるのが家族。だからこそ難しい面も当然ある。 けれどそれを受け入れて包み込む度量を持つことが、きっと家族に日和を与えてくれるんだと思う。 簡単だけど忘れがちな、大切なことをサラっと書いている1冊だと思います。 (2007年7月7日読了/☆4)
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