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「 2007年01月 」 の記事一覧
『風が強く吹いている』
“箱根の山は蜃気楼ではない。
襷をつないで上っていける、俺たちなら” 「超ストレートな大型青春小説」と帯にはありましたが それはもう見事なまでの剛速球で、私の心にど真ん中ストライク!! 走ることは大の苦手な(しかも長距離なんて滅相もない)私ですが、 ほんとに面白くてのめり込んだ、素晴らしい作品でした。 寛政大学4年・清瀬灰二(以下、ハイジ)と新入生の蔵原走(カケル)。 2人の出会いは唐突だった。 運命としか言いようのないその偶然の一瞬で ハイジは走にほとばしる才能を、 そして自分が探し求めていた究極の何かに辿り着く予感を感じ取る。 すべてはそこから始まった。 ハイジは走を巻き込み、同じアパート(竹青荘)に住む他の8名と共に 大学駅伝の「頂点」、あの箱根駅伝を目指すという無茶な(でも真剣な)宣言をする―。 ハイジも走も理由あって陸上の一線から退いているものの、 元はかなりの実力をもったランナー。 2人とも走ることを心から愛しているのに、走る場に飢えていたのです。 しかし、他のメンバーはほとんどが陸上未経験者。 そんな彼らが、理知的でちょっと強引でそれでいて面倒見もよくて、 誰よりも走ることに誠実なハイジに心を動かされ(ていうかうまく操られ)ていきます。 もうね、あり得ないほどポンポンと物事が進んでくけど全然気にならない。 そんなの、面白いからどうだっていいんです! その様子が本当に可笑しくて、何度となく噴き出してしまいました。 衝突したり、励まし合ったり、刺激を受けたり。そんな風にして10人だけの挑戦は続くのです。 メンバー全員のキャラクターの描き分けも絶妙でした! 既読の方にしか分からなくて申し訳ないですが ハイジがカッコいいのはもちろん、私は個人的にニコチャン先輩が好き。 (留年して大学5年目。でも3年生。学費はすべて自分で稼ぐ苦労人) 決して出しゃばらないけど、ハイジのいちばんの理解者という感じと的確なツッコミがたまらん。 あと神童(地元ではそう呼ばれるほどの秀才だった)の穏やかさ。 ムサ(外国人留学生。ただし陸上のではなく純粋な勉学のための)との ほのぼのとしたやり取りも可愛いかった。 それと、キング(←クイズ王だから)が抱えていた自分の個性に対する不安もすごく共感できたし 天真爛漫でちょっと的外れな双子(ジョータ&ジョージ)も、クールで知的なユキも、 走ることが苦手なのに最後まで頑張ったマンガおたくの王子(ルックスが甘いから)も もちろん主人公の走も不器用だけどイイ奴。全員ほんとにイイ奴なのだ。 そして、とうとう手にした箱根本選へのキップ。 それぞれが今までの自分を思い出しながら、これからの自分を思い描きながら 仲間たちへの揺るぎない信頼を胸に走り、ひたすら懸命に襷をつなぐ様子は もう読んでいるこっちまでがまさに手に汗握ります。 どうか、どうかこの人たちをこのまま真っ直ぐに走らせてあげてください、と。 ただ早く走れるスピードがあればいい 「走ること」はいつだって「自分ひとりですること」なんだから・・・ ずっとそう思い込んでいた走に対してハイジは 「速さを求めるだけじゃ駄目なんだ。強くなれ」とい言います。 そして最後に走は気付くのです。
読み終えるのがこんなにも寂しい本に出会ったのは 本当に久しぶりだったような気がします。 実はこれを読み始めてすぐに少しばかり落ち込むような出来事があったんですが この本の世界に居る間だけはとても元気でいられました。元気を分けてもらいました。 本選の様子では各区間の距離やコース上のポイント、目安タイムも詳細に載っているので 実際の箱根駅伝を見ながら読むのもまた一興かもしれません。 っていうか、新年明ける前に読んでおけばよかった・・・。 そしたら今年の箱根駅伝、かぶりつきで見てたと思う。 よし。今年の暮れには再読しよう! いや来年どころか今からすぐにでももう1度読みたいくらい気に入ってしまいました。 駅伝が、そしてスポーツが好きな全ての人に是非読んでみてほしいです!! (2007年1月29日読了/☆5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『ぼんくら』
江戸のとある長屋で次々と起きる事件に関わる人々の生活と人情が 軽妙かつユーモア溢れるタッチで描かれ、 事件の全容が浮き彫りになっていくまでの経過も鮮やか! 読み進めるのが心地よい作品でした。 まず、構成がとても巧み。 最初に続く短編5篇の中で、長屋に住む人たちの性格や暮らしぶり、 事件の伏線となる出来事がポンポンと描かれ そして満を持して本編の「長い影」という長編に突入します。 事件を追うのは主人公の井筒平四郎。下級役人(同心)です。 元来が怠け者で面倒くさがりと自覚する平四郎は 何事にも首を突っ込み過ぎず、適度な距離を保っており 威張ることもなく気さくに町の人々に接するため、皆に慕われています。 しかし彼がまとめる地域にある鉄瓶長屋では 殺人事件を発端に、次々と不可解な出来事が続きます。 人望のあった熟練の差配人(長屋を管理する人)が失踪し、 代わりに若くて経験もない差配人がやってきて以来 他の店子たちもどんどん出て行ってしまう。 最初はすべて偶然だろうと楽観していた平四郎も、事態に疑問を持ちます。 人を疑うことや陰でこそこそ調査したりすることが苦手な平四郎は 自分の本分ではない事態に対して時に辟易としながらも 彼の人徳も手伝って、周りの人たちの協力を得ながら 少しずつ真相を手繰りよせていくのです。 まずは平四郎の甥っこ・弓之助。 お人形のような美しい顔形をしながら、 子どもとは思えないような鋭い洞察力を見せ、平四郎の片腕になります。 そんな弓之助に自分の役目を奪われて嫉妬する、平四郎の付き人・小平次や 冷静沈着・百戦錬磨で頼りになる岡っ引き・政五郎、 そして政五郎のもとにいる「おでこ」という子供は 聞いた話を何でも記憶して、必要な時に思い出せる能力があったりもするからビックリ。 また、長屋の人たちについてもそれぞれの人柄が描きこまれていて 特に、煮物屋を営むお徳や若い差配人の佐吉などは、 良心の塊のような愛すべき人たち。 しかし、ほんの一握りの人たちの悪意や不条理で身勝手な思惑が 事件の根源にあったのです。 めったに怒らない平四郎をも怒らせるような、しょうもなくてやるせないことが。 「今、この人はこう思っているんだろうな」と 気持ちを慮ることって、すごく大切なことです。 平四郎も周りの人たちも、みんなそんな優しい気持ちを持って人と接している。 でも、その一方で 「この人はどうせこう思ってやがるんだろう」というような 否定的な思い込みしかできない人もいる。 前者は相手の立場になっている、後者は自分の都合や不利益ばかりを気にしている。 その差が、この事件を引き起こしてしまったのだと思いました。 それでもやっぱり、全体を通してこの作品が暗く険しい印象を残さないのは 平四郎をはじめとする、登場人物たちのキャラの素晴らしさにあると言えます。 続編となる「日暮らし」も刊行されていますので 平四郎や弓之助やその他の愛すべきキャラたちにまた会うために 近いうちに読んでみようと思ってます。今からとても楽しみです! (2007年1月23日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『図書館の神様』
「清く正しい自分」ってなんだろ?
自分らしさの境目で、1人の女性がゆっくりと変わっていくその過程が とても丁寧に描かれている作品でした。 主人公の清(以下、キヨと書きます)は自分について、 「名前のとおり、清く正しい人間だった」と言っています。 実際、そうありたいと思って生きている人は多いかもしれないけれど、 過去の自分がそうだったと認められる人ってなかなかいないですよね。 そんなところが当時のキヨの弱さだったんじゃないかな、と思うのです。 ピンと張り詰めていて、しなることができなくて、いきなりポキっと折れちゃうような痛々しさ。 夢中になるものがあって、ただ真っ直ぐ生きてきたのに 高校最後の年に思いもよらない形でそれを取り上げられてしまったキヨ。 彼女は数年後、特に熱望するでもなく、ただなんとなく高校の国語講師となり、 本に全く興味がないのに部員がたった1名の文芸部の顧問になる。 学校の外では「不合理な恋愛」(つまり不倫)もしている。 そんなキヨの日常が、弟の拓実くんや不倫相手の浅見さん、 そして文芸部の垣内君とのやり取りを通じて描かれていきます。 キヨは弟・巧実くんについて「精神は軟弱」と言います。 「適当に嘘つきで、いい加減で、人の顔色ばかり見て、要領がよかった」と。 世間的にはこういったことを適度にできる人こそが“強い”というのに。 この巧実くんがとても姉思いで優しく、マイペースなナイスキャラの弟で、 彼が毎週のように訪れてはキヨにゆったり接してあげている。 差し入れたプリンの成分を気にするキヨに 「プリンなんて甘くてプルプルしてればいいの」と諭す。「まあね」と納得する。 何気ないやり取りがキヨの癒しとなっていきます。 そしてもう1人。文芸部の垣内君。 彼もまた、周りの目など気にせず、飄々としていてマイペースな男の子。 キヨもある意味そうなのだけど、彼女の場合のマイペースさは 「何か運動はしないの?」「どうして文芸部なの?」という、悪意はないけどストレートなもの。 それに対する垣内君は、ちゃんと受け入れるキャパシティもユーモアも持ち合わせていて びっくりするくらいオトナだ。 「文芸部は何一つ同じことをしていない。僕は毎日違う言葉をはぐくんでいる」 なんて、なんかすごくイイではないですか。 他にも垣内君の言動は、ひとつひとつが染みわたるように穏やかなのです。 一方で「不合理な恋愛」相手の浅見さん。 浅見さんとキヨは他人との距離の取り方が似ているのでしょうね。 いや、昔のキヨとは似ていたのかな。 真っ直ぐすぎるところ、それに無自覚で他人の気持ちに無頓着であるところが。 夜中に読んだ本がただ怖くて声を聞きたくて電話をかけた時の浅見さんの反応や それ以降に見せた浅見さんの引き際の対応なんかは、 たぶん昔のキヨなら同じことをするんだろうなとちょっと思いました。 (つまり私は浅見さんにはなんの魅力も感じ得なかった、 そして不倫についてはやっぱりやるせない気持ちだけが残った、ということです) とにかくキヨには、新しい世界と広い視野と感受性が必要だった。 そして弟や垣内君や生徒たちから、いろんなことを吸い取って だんだんと丸みを帯びた人間になっていくのです。ゆったりと自然なペースで。 ただ、個人的には 部活最後の日のキヨと垣内君の場面(表紙にもなってますね)は ちょっと読んでて気恥ずかしい、というか何となく2人に追いつけませんでした。 それまでの淡白な雰囲気とのメリハリだったのかもしれないけど。少し唐突で。 でも、文芸部の“朝連”の件とキヨに最後に届いた1通の手紙については、 キヨのこれからにとって、きっと救いになってくれるんだろうなと思えて すごく良かったなと思います。 うまく言えませんが、 瀬尾さんの書く本は文体に癖がなくて、それでいて個性がないわけでもなくて サラっとしてるのに冷たい感じじゃなくて 読んだ後になればなるほど、柔らかい印象を残すなぁと思いました。 (って、まだ2冊目なのにエラそうですが・・・) きっと、好きな人にはすごく好きな世界なんだろうなと思います。 それにしても、キヨが勤める高校の海が見渡せる図書室。いいなぁ!! そんな場所があったらい1日ずーっと居ついちゃいそうです。 (2007年1月17日読了/☆3.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『町長選挙』
『空中ブランコ』、『イン・ザ・プール』に続く、精神科医・伊良部シリーズ第3弾は
誰もが知ってるアノ有名人も患者として登場!?で 今までの2作とは少し違った雰囲気だったかも。 4編のうち3つは、実際にテレビや雑誌で国民的におなじみの 実在する有名人をイメージさせる人たちが それぞれ患者となって伊良部総合病院を訪れるというストーリー。 (球団オーナーでもあった大新聞社の元会長、 株の問題で逮捕されちゃったIT企業の元社長、 驚異的な若さを保つ40代の某有名女優) この小説はもちろんフィクションだし、取り上げている症状だって架空のものだけど でももしかしたら、ここまで有名になってしまった人たちの心の中って 多かれ少なかれ当たっている部分もあるのかもしれないなーと思わされます。 著者の観察力とイマジネーションにあっぱれです。 普段、本としての活字に慣れていない人でも それこそテレビや週刊誌を見るような感覚で、サクサク読んでいけるのではないでしょうか。 もちろん、愛すべき精神科医・伊良部の滅茶苦茶ぶりも健在☆ 患者より誰よりこの人の頭の中(5歳児並?)や神出鬼没ぶり 固定観念の無さや世間体を気にしない図々しさのがよっぽどすごすぎるー! もうとにかく笑えます。 でも時々、真実をついた鋭いことをズバズバっと言うんですよね。 一見なんの理屈もないようなドンデモナイ行動も、実は計算された荒治療なのか? ・・・いや、そこを勘繰っちゃ違う気がするな(笑) そして、表題作の「町長選挙」だけは どちらかと言えば善良で生真面目な一般人が主役、という 前回までのシリーズの流れを汲んだ話。 ただ、舞台は伊良部総合病院ではなく離島。 町長選挙で勢力が完全に二分した過疎の離島に伊良部が赴任してしまうという設定。 日常生活に支障をきたすほど病んでしまった主人公が あえなく伊良部の診察を受けるという本来のパターンではないのだけど、 これもなかなか面白かった。 いつもは闇雲にひっかき回すだけの伊良部もちょっとイタイ目に遭ってるし(笑) あと、今回は全編をとおして 伊良部の相棒(?)であるパンク魂のナース・マユミが大活躍。 彼女のキャラもこの作品には必須です。あり得ないけどスカっとします。 最初の方は、モデルとおぼしき有名人の顔がどうしても脳裏をかすめるので 伊良部先生のキャラがほんのちょっと薄れてしまったかなという気がしましたが でもやっぱり、シリーズ続編が出たらまた読んでしまうのだと思います。 「コイツだいじょうぶ?」と思いながらも何故か続けて通院してしまう 伊良部の患者たちと図らずも同じ状態にさせられているようです(苦笑) 奥田英朗さんの文章の巧みさから生まれるスピード感、 そしてコミカルさ加減がクセになるのです! (2007年1月13日読了/☆3.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『チョコレートコスモス』
舞台を観るのが好きだ → YES 漫画「ガラスの仮面」が好きだ → YES 両方「YES」なら是非この作品を読むべし!ハマること間違いなしです☆ あらすじ:幼い時から舞台に立ち、多大な人気と評価を手にしている若きベテラン・東響子は、 奇妙な焦りと予感に揺れていた。 伝説の映画プロデューサー・芹澤泰次郎が手がける芝居のオーディションが 近々大々的に行われるらしいという噂を耳にしたからだった。 同じ頃、旗揚げもしていない無名の学生劇団に、ひとりの少女が入団した。 舞台経験などひとつもない彼女だったが、その天才的な演技は 次第に周囲を圧倒してゆく。少女の名は佐々木飛鳥。 演じる者だけが見ることのできるおそるべき世界が、いま目前にあらわれる! 漫画『ガラスの仮面』へのオマージュとも言える作品。 著者ご自身もそう公言しておられるとか。 本能のままに模倣することで演技を開拓し 見る者をアっと言わせる天才ぶりを見せつける飛鳥、 環境にも美貌にも才能にも恵まれながら、それに甘んじることなく 常に自分を客観的に分析し、努力と経験を重ねる響子。 その構図はまさしく『ガラスの仮面』におけるマヤと亜弓。 ただし、漫画では彼女たちの表情や仕草を“画”という手段で 描ききることができますが 小説においては活字で伝えるしかありません。 しかしそこはさすがに恩田陸。 舞台を見守る人々(脚本家や大学の先輩)がその演技に揺れ動かされる様を通じて 「やっぱりこの2人って凄いのね!?」 と読者に思わせることに成功しています。 作中の言葉を借りるならば ―舞台の上で起きている世界を信じ、舞台の上で役者が演じていることを信じる演技― を知らぬ間にさせられている観客になったような、そんな臨場感なのです。 ただひとつ、残念だったことを挙げるとするならば 佐々木飛鳥の人間性(主観)には一切踏み込まれておらず 感情移入するのが難しかったということ。 それは「自分がない」と称される飛鳥ゆえの | |