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「 2006年12月 」 の記事一覧
2006.12.29 Fri
『幸福な食卓』
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う。」
このセリフが冒頭の1行目。 家族のあり方を問いかける小説でした。 あらすじ:― 父さんが自殺を失敗したときも、母さんが家を出たときも、朝は普通にやってきた。 そして、あの悲しい出来事のあとも ― 主人公・佐和子の中学〜高校時代にかけての4編の連作による構成。 佐和子の“少しヘン”な家族 (父さんをやめた父さん、家出中なのに料理を持ち寄りにくる母さん、元天才児の兄・直ちゃん) そして佐和子のボーイフレンド、兄のガールフレンドを中心に あたたかくて懐かしくてちょっと笑える、それなのに泣けてくる“優しすぎる”ストーリー。 (「BOOK」データベースより抜粋、編集) お互いの存在を頼りにし、気遣いもする。 けれど、綻びはずっと生じたままで、それぞれが少なからず疑問を感じ 危うさに気付いていて、常に“自分の役割”を意識している。そんな家族。 「そんなこと言われなくたって分かってるよ。ほっといて!」 なんて、無遠慮に突き放したり過剰に心配したり・・・ という距離感ではまったくなくて。 例えば冒頭のひとこと。 「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」 それを聞いた家族の反応にしても、 佐和子は疑問に思うものの、兄の直ちゃんは「まあ、いいんじゃない」って感じで 結局、それを受け入れる。それがサラサラ描かれる。 あえて、その境地に至るまでの経緯は書かれてないんだとしても 最初は正直、その実体のない感じというか生活感の薄い雰囲気に 少し戸惑ってしまいました。 あと、朝食の食卓を囲むシーンが多く、必然的に食べ物の描写が多いんだけど この家族は質のいいものをバランスよく、決められた席で、決まった時間にしっかり食べている。 そんなところにもちょっと違和感があるんです。(たぶんそれは意図的に) でも徐々にこのストーリーに引き込まれていったのは まず中学校から高校に成長していく佐和子の視点が すごくシンプルで清潔であったこと。 すごく好ましい女の子だなと思った。 ひょんなことから学級委員になっちゃって、うまくいかなくて悩む佐和子の 学校内での描写なんかはとてもリアルで、唸ってしまいました。 ボーイフレンドの大浦君も魅力的で、2人の掛け合いも可愛らしくて好き。 それから、食べ物が巧く使われているなぁと思う部分ももちろんあって。 特に、器用だけど真剣に生きられない兄(直ちゃん)の ガールフレンド・小林ヨシコの存在と彼女が作るシュークリーム。 あと、家を出た母が働く和菓子屋の桜餅をたくさん買い込んで 勢いで夕食にしちゃうシーンとか、良かった。 そうやって、日常の小さなキッカケの中から少しずつ殻を破って 家族がそれぞれ“自分の役割”という縛りから抜け出していくんです。 だけど、最後の章で予測もつかないような出来事が佐和子に降りかかります。 それはあまりに突然で、 改行された1行目を読んで思わず「えっ?」と声が出るくらいの急展開で。 賛否が分かれるところだと思うけど、私は不覚にもどっぷり涙してしまった。 それまでのエピソードがあっさりと描かれていたせいもあって 佐和子の悲しみの深さは余計に際立っていたと思うし 父さんも母さんも直ちゃんも、そんな佐和子を見守る中で苦しんでいた。 それが伝わってきた。 そしてやっぱり最後も小林ヨシコとシュークリームなんです。 してやられたなぁ(笑) 瀬尾まいこ作品は初めてだったけど シンプルで読みやすいなぁと思いました。 このシンプルさ加減に、時々置いていかれるのだけども(笑)。 他の作品も是非読んでみようと思います。 (2006年12月29日読了/☆3.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『告白』
さてと。私は一体何から書けばよいのか。
自分の言いたいことを見失ってしまうほどの勢いで迫ってくる そんな作品でした。 あらすじ:人はなぜ人を殺すのか― 河内音頭のスタンダードナンバーであり、実際に起きた大量殺人事件 <河内十人斬り>をモチーフに、永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。 殺人者の声なき声を聴け! 舞台となっているのは明治初期の河内地方(大阪府南東部)の小さな村。 主人公は城戸熊太郎。 熊太郎は幼い頃から、実際の思いと口から発する言葉が思うように一致しない自分に ジレンマを感じ、またその一方で直線的にしか振舞うことのできない村の住民を見下していた。 そんな熊太郎はある事件に巻き込まれる。 そしてその時の罪の意識を引きずるが故に、 自らの人生を投げ出し酒や賭博に溺れ、極道者として生きていくことになる。 では、村のみんなが陰口を叩くように 熊太郎が“何を考えているか分からん狂人”なのかと言えば、 (私たち読者にとっては)そうではありません。 逆に、熊太郎が頭の中でごちゃごちゃ考えていること いやむしろ考えなくてもいいことまでも この600ページを越す本の中にギッシリと、行間を読むなんてことが許されない位に ページから溢れんばかりに書かれています。 しかもかなり独特の文体で。解読不能な言い回しで。 (最初は正直これに慣れるのに時間がかかってしまいました) とにかく熊太郎がああでもないこうでもないと、ごちゃごちゃ考えれば考えるほど 事態は悪い方へと転がっていくのです。 その殆どが己の欲望と虚栄心にとらわれすぎてのことであって 読んでいて「あーーーなんでそうすんねん!なんでそっちを選ぶのん?」 と頭を掻き毟りたくなる気持ちに何度も何度もなります。 不器用で。阿呆で。気が小さいのに見栄っ張りで、見境がつかなくて。 でもその馬鹿正直さで弟分・弥五郎を惹きつけたりもしている熊太郎。 この男たちは一体どこまで転がっていくのか― 最後まで見届けようという気持ちにさせられていくから不思議でした。 熊太郎弥五郎が十人もの人間を斬るという凶行に至った経緯は すべて熊太郎が生きてきた間の彼の思弁に繋がっています。 その思弁と裏腹に取ったあらゆる行動が全ての引き金になっているのだから。 しかし、自らの死を受け入れようとする段階になってもなお 「自分が生まれてから1度たりとも本当の気持ちを口にしていない」 という思いが熊太郎を苦しめるのです。 自分の言葉が人に届かないやるせなさ。 それ以前に、本当の思いが言葉にできないもどかしさ。 それらをすべて自覚した上での苦悩。 熊太郎に最後の最後まで残ったのは、 長年の恨みを晴らした高揚感でもなく、無残に人命を奪った罪悪感でもなく ただひたすらの虚無感だけだったのかもしれません。 彼が発した最後の一言を聞いて、私も言葉がなくなりました。 最後に、熊太郎が人生を棒に振るキッカケとなった事件。 それすらも熊太郎の頭の中だけでの妄想あるいは幻覚だとすれば それはもう、受け入れるにはあまりに残酷なのだけれど でもきっと現実も幻覚も見つめ直す勇気がなかったことこそが 熊太郎のいちばんの弱さであり、人間誰しもに共通する醜さなのでしょう。 熊太郎以外の登場人物もみな、非常に人間臭いというか 狡さや意地汚さや軽薄さや計算高さや、そういったどす黒い部分を これでもかこれでもかと感じさせる人物ばかりでしたが にも関わらず、絶妙な口調が可笑しさや哀れさを煽り、 ページがぐいぐいと進んでいきました。 本当にいろんな意味で圧倒された1冊でした。 (2006年12月26日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『蝉しぐれ』
人間の「強さ」というのは、いかに「信じられるものがあるか」ということではないかと
この本を読んで強く思いました。 あらすじ:時は江戸時代。庄内地方は海坂藩(架空)。 普請組屋敷に住まう元服前の少年・牧文四郎は 自らの仕事に誇りを持つ父・助左衛門に尊敬の念を抱き、 良き友にも恵まれ、隣に住む幼馴染の少女・おふくを気に掛けながら 日々をしっかりと文武に励んで過ごしていた。 が、蝉の声が狂ったように鳴きたてる夏のある日、 父が死罪になるという事件が起こる―。 ※以下、若干ネタバレありかも。未読の方はご注意を。 いちばん印象に残ったシーンをあえてあげるなら 父が切腹に処されることが決まり、最後に対面が許可された場面。 崩れそうな気持ちをグっと堪え、しかし伝えたかったことは何も言えぬまま父と別れた文四郎。 外で待っていてくれた親友・逸平にその次第を語る途中、逸平の「泣きたいのか」の一言に 「おやじを尊敬していると言えばよかったんだ」と涙を流す。 そして後日。父の遺体をたった一人で取りに行き、 家までの道のりを、酷暑の中、車を曳いてひたすら歩く。 今まさに父と二人きりでいるのだと、自分を叱咤しながら・・・。 そこに現れて手伝いを申し出てくれた道場の後輩の言葉と 物言わず手を合わせて車を曳いてくれたおふくの姿に 読んでいて、切なさと温かさが入り混じってきて、涙が止まりませんでした。 罪人の身内となった文四郎は、藩からの過酷な冷遇にさらされがらも決して自らを見失いません。 その鬱憤を剣の鍛錬へと一心に向け続け、類稀なる強さを身につけていきます。 その姿に、読んでいるこちらが心底励まされるような気持ちになりました。 そして、彼にそうさせていたのは、亡き父を信じる気持ち、母を守らなければという責任感 加えてそんな環境にあっても変わることなく自分と接してくれた親友とおふくの存在でした。 「信じるものがある」、それが「強さ」に繋がっていく。 文四郎は、人間としても男としても、とても魅力的でした。 また、登場する人物それぞれに強い意志や自我があり 文四郎を支える人たちも、敵対する人も それぞれが抱える心理背景が細部にわたってしっかりと描かれていました。 さらに特筆すべきはその自然描写の巧みさ。 とても何気なく盛り込まれているのだけれど、 川のせせらぎや陽射しの強さ、吹く風の勢い、広がる田園風景など 鮮明に目に浮かぶように、心にすーっと入り込んできました。 最後になりましたが、幼馴染・おふくとの関係もこの物語の軸。 互いに惹かれあいながらも、その気持ちを伝える機会を得ないままに 二人には決定的な別れが訪れます。 ほんの少しのすれ違い。そこがもう本当に切ない。 けれど、幾年の月日が過ぎようとも、立場がいかに変わろうとも 二人は深いところで繋がっていて、その気持ちを拠り所としているのです。 物語の終盤に起こる事件で、二人は導かれるように再会します。 僅かな時間だけれど心を交わす姿は、緊迫した場面の中であっても美しかった。 そして、二人が長年抱えていた悔いや憂いが拭き取られていくようなラストが、私は好きでした。 あの時ああしていれば・・・という 普段は心の奥底に隠している気持ちって、大なり小なり誰にとってもあると思うのです。 その蓋を開けるスイッチを押されてしまったというか、 読み終わったあと、切ないけれど、心地よさも残る素敵な本でした。 それにしても、何度涙を拭ったことか! 質のいい読書をさせてもらったという気がします。 時代小説って、難しいとか分かりにくいとかいうイメージがあって 今までずっと敬遠していたのですが、 文体も瑞々しくて、馴染みやすくて、ただただ素晴らしかった☆ 読んでよかったと、心から思える本だと思います。 (2006年12月17日読了/☆5)
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