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「 ◆「マ」行の作者→宮部みゆき 」 の記事一覧
2007.10.26 Fri
『楽園』
楽園 上 (1)
楽園 下
楽園
posted with amazlet on 07.10.30
宮部 みゆき
文藝春秋 (2007/08)

 あらすじ:
9年前に起きた大量殺人事件(『模倣犯』収録)以来、
未だショックから立ち直れぬままのフリーライター・前畑滋子。
彼女のもとに、萩谷敏子という中年女性が訪ねてくる。
12歳で事故死した彼女の1人息子・等(ひとし)が遺したノートに、
ある“事件”の現場と被害者らしき絵が描かれており、事実関係を調査してほしいと言うのだ。
その事件とは、失踪したと思われていた土井崎茜という少女の亡骸が
自宅の床下に遺棄されていたというもの。
火災に遭ったのを機に茜の両親が殺害を自供し、16年の時を経て初めて明るみに出たのだった。
等は何故、この事件を予見する絵を描くことができたのか―。
そして、この殺人死体遺棄事件の裏側にある真相とは―。


この作品は、人間の弱さが引き起こした“どうしようもない”事件を追うミステリーであると同時に
登場人物ひとりひとりの生い立ち、暮らしぶり、そして事件に対する葛藤を
細やかに愛情深く描いてあって、人間ドラマとしての奥行きをじゅうぶんに感じさせてくれます。
改めて、宮部みゆきは稀有な作家だなぁと思いました。



前半は、萩谷等の絵に潜む謎を解明すべく
萩谷親子に関係する人々の証言や
絵に描かれていた事件現場周辺の聞き込みを中心に進んでいきます。
調べれば調べるほど、滋子の頭に浮かび上がる1つの仮説―
 萩谷少年には、接触した人間が隠す秘密を読み取る特殊な能力
 (サイコメトラー、千里眼といったようなもの)があったのではないか?


普通に考えればあり得ない。
あり得ないからこそ、それを立証するために
少年が偶然に土井崎家の事件のことを知ってしまった可能性、
もしくは、事件の関係者が少年に吹き込んだ可能性はないかと、滋子は調査を進める。
そして、萩谷親子の周辺から土井崎家につながる道筋を手繰り寄せていった結果、
後半は焦点ががらりとすり替わっていきます。
 土井崎茜は何故両親の手によって殺められなければならなかったのか?
 両親は何を守ろうとして、16年も隠し続けた秘密をあっけなく自白したのか?




萩谷敏子の生まれ育った環境にも、土井崎茜と彼女の両親が抱えていた事情にも
他人が決して踏み込めない家族の領域、各家庭が抱える薄暗い場所がありました。
1枚の絵の謎を追ったことから、滋子は結局そこに足を突っ込んでしまうのです。
正直、滋子が何のために躍起になっているのかが分からなくなる瞬間もあり、
「もうそのくらいでいいんじゃない?」と声を掛けたくなるような時もありました。

けれど滋子自身も、出向く先々で9年前の事件との関わりに触れられ
今まで目を背けていた過去に真正面から向き合っていくのです。
だからこそ、真相を追うことを最後まで止められなかったのではないか。
過去の教訓から「これでいいのか」と思案したり、時には突っ走ってしまって反省したり、
そういった成長の跡や人間臭さ、また夫との良好な協力関係という
滋子という1人の人間のベースになる部分までしっかり踏み込んであったから、
やはり最後まで彼女応援する気持ちにもなれたのだと思います。

あと、本編の合い間に「断章」という、別の少女のストーリーが挿入されるのですが
きっと最後には本編の筋書きと交わるのだろうと分かっていても、読むのが怖かった・・・。
本編の緻密な構成に対して、断章の何が起こるか分からない危うさ。
そのバランス感も見事で、ストーリーを追う面白さを助長していたように感じました。
(『模倣犯』を読んだ時の印象と比べてみても、ラストに向けて収束していく感じが
シャープになっているような気がしました)

作中で、土井崎茜の両親の弁護士が滋子に対して発した台詞が印象深いです。
「全部がすっきり割り切れて、全員の気持ちが落ち着くなんてことはあり得ない」のだと。 

我が子に手をかけるという、あってはならない悲しい出来事が起きた背景には
両親が決して表沙汰にしたくはない事実があり、茜の妹・誠子という守るべき存在があった。
事件の発覚により多くのものを失った誠子が、それでもやはり真実を知りたいと訴え、
けれど真相の解明を前にしてだんだん気持ちが変化していく過程や
ずっと口をつぐんでいた母・向子の最後の告白にすべてが集約されていたと思います。
人間は愚かで、どうしようもなくて、すべてがすっきり割り切れることはない。
だから、ラストはこういう幕の引き方もアリなんじゃないかなと、私は受け入れられました。

ただ、滋子が萩谷敏子の依頼を本腰を入れて引き受けざるを得なくなった
もう1枚の絵に関する謎が、最後まで明らかにならなかったのが少し残念。
 
(2007年10月26日読了/☆4.5)
  

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
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2007.01.27 Sat
『ぼんくら』
江戸のとある長屋で次々と起きる事件に関わる人々の生活と人情が
軽妙かつユーモア溢れるタッチで描かれ、
事件の全容が浮き彫りになっていくまでの経過も鮮やか!
読み進めるのが心地よい作品でした。

ぼんくら
ぼんくら
posted with amazlet on 07.01.27
宮部 みゆき
講談社








まず、構成がとても巧み。 
最初に続く短編5篇の中で、長屋に住む人たちの性格や暮らしぶり、
事件の伏線となる出来事がポンポンと描かれ
そして満を持して本編の「長い影」という長編に突入します。

事件を追うのは主人公の井筒平四郎。下級役人(同心)です。
元来が怠け者で面倒くさがりと自覚する平四郎は
何事にも首を突っ込み過ぎず、適度な距離を保っており
威張ることもなく気さくに町の人々に接するため、皆に慕われています。

しかし彼がまとめる地域にある鉄瓶長屋では
殺人事件を発端に、次々と不可解な出来事が続きます。
人望のあった熟練の差配人(長屋を管理する人)が失踪し、
代わりに若くて経験もない差配人がやってきて以来
他の店子たちもどんどん出て行ってしまう。
最初はすべて偶然だろうと楽観していた平四郎も、事態に疑問を持ちます。

人を疑うことや陰でこそこそ調査したりすることが苦手な平四郎は
自分の本分ではない事態に対して時に辟易としながらも
彼の人徳も手伝って、周りの人たちの協力を得ながら
少しずつ真相を手繰りよせていくのです。

まずは平四郎の甥っこ・弓之助。
お人形のような美しい顔形をしながら、
子どもとは思えないような鋭い洞察力を見せ、平四郎の片腕になります。
そんな弓之助に自分の役目を奪われて嫉妬する、平四郎の付き人・小平次や
冷静沈着・百戦錬磨で頼りになる岡っ引き・政五郎、
そして政五郎のもとにいる「おでこ」という子供は
聞いた話を何でも記憶して、必要な時に思い出せる能力があったりもするからビックリ。

また、長屋の人たちについてもそれぞれの人柄が描きこまれていて
特に、煮物屋を営むお徳や若い差配人の佐吉などは、
良心の塊のような愛すべき人たち。

しかし、ほんの一握りの人たちの悪意や不条理で身勝手な思惑が
事件の根源にあったのです。
めったに怒らない平四郎をも怒らせるような、しょうもなくてやるせないことが。

「今、この人はこう思っているんだろうな」と
気持ちを慮ることって、すごく大切なことです。
平四郎も周りの人たちも、みんなそんな優しい気持ちを持って人と接している。
でも、その一方で
「この人はどうせこう思ってやがるんだろう」というような
否定的な思い込みしかできない人もいる。
前者は相手の立場になっている、後者は自分の都合や不利益ばかりを気にしている。
その差が、この事件を引き起こしてしまったのだと思いました。

それでもやっぱり、全体を通してこの作品が暗く険しい印象を残さないのは
平四郎をはじめとする、登場人物たちのキャラの素晴らしさにあると言えます。
続編となる「日暮らし」も刊行されていますので
平四郎や弓之助やその他の愛すべきキャラたちにまた会うために
近いうちに読んでみようと思ってます。今からとても楽しみです!

(2007年1月23日読了/☆4)
  

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
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