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「 ◆「サ」行の作者→佐藤多佳子 」 の記事一覧
2007.11.25 Sun
『一瞬の風になれ』
昨年の吉川英治文学新人賞受賞作、そして2007年本屋大賞受賞作。
買ってから1年近く寝かせたままでしたが(汗)、やっと読みました。
今さらですが、評判どおりに素晴らしかったです。号泣です。
ああーーーなんで私はもっと早くちゃんと読まなかったんだろう?
少なくとも夏の世界陸上の前に読んでおけばよかった!!
そうすれば、日本がメダルなんか取れなくても、あのトラックに立つことの凄さを感じて
もっともっと目に焼き付けておけたのに・・・。

一瞬の風になれ(全3巻セット)一瞬の風になれ(全3巻セット)
(2007/06)
佐藤 多佳子

商品詳細を見る

 あらすじ:
主人公・神谷新二は、中学時代からずっとサッカー部に所属していたが、
Jリーグからスカウトされる天才選手の兄・健一を間近で見るにつれ、
自分の能力に限界を感じるようになる。
そんな折、幼馴染の一之瀬連と同じ高校に入学。
連が陸上短距離界で全国的に注目される選手でありながら、
競技から遠のいていることを知った新二は、彼を誘い二人で陸上部に入ることを決意する。
兄と連、二人の天才の間でもがきながら、それでも二人に近づこうと新二は走り続ける―。


私が今まで読んだ佐藤多佳子さんの作品に出てくる男の子は
みんなちゃんと自分のやりたいことがあって、
苦しんだり挫折したり遠回りしながらも、自分自身の中でちゃんとそれを消化して、
夢や目標に向かって成長していく・・・そんな素敵な男の子ばかり。
こんな男の子に出会えちゃったヒロインを思わず羨ましく感じてしまうほどです(笑)
この作品の主人公である新二も例にもれず、
ひたむきで、努力家で、情に厚くて、ちょっとシャイで、ものすごくイイ奴でした。

いやだって普通、歳が近くて同じ競技をやってる天才の兄貴がいたら
もっとスレちゃうもんなんじゃないかと思うけど、
健ちゃんの才能を誰よりも信じているのが新二なんです。
第2巻の終盤で、健ちゃんと新二、2人とって乗り越えなくてはならない
大きな壁にぶつかり、お互いの思いが錯綜するシーンが、私的にはいちばん号泣だった。

そして、新しく陸上を始めることにしたら、今度は幼馴染が天才で、
しかもそいつが逃げてばかりで真面目にやらないことを叱って
引っ張り戻して一緒に泣いちゃうんですよ、この子は。
もう、一体どれだけ私の胸をキュンとさせるのだ、新二よ・・・。
才能は誰にでも与えられるものじゃないと知っているからこそ、
2人にその才能を大事にしてほしいと新二は願うのです。そして自分も努力する。
試合での集中力、体力、走りの技術、風をきる感覚。
いろんなものを積み重ねて大きくなっていく彼の成長ぶりは、本当に眩しいの一言でした。
自分の体中のすべてのパワーを使って、100mを一瞬で駆け抜ける、その感覚。
足の遅い私には一生味わえないことだけど、伝わってくるんですよね。

チームメイトたちも良かった。
新二と連、彼らと一緒に走るリレーメンバーにもいろいろドラマがあって。
学年ごとにメンバーが入れ替わって、先輩後輩のいざこざがあったり、
それぞれが実力の壁にぶつかったり・・・。
大会で競う他校の選手たちとも実力を認めあって、
男同士のライバル意識を越えた友情が、もうまさに青春。
そして、青春といえばもちろん恋もありますよ。こちらもキュンときます。
いろんなことに悩みながら、次第に信頼関係が生まれてお互いにいい影響を与え合う、
その姿がすごく良かった。
世知辛いご時世だけど・・・こんな高校生たち、どこかにいると信じたい。

キャラクターはかなり豊富でしたが、私のいちばんのお気に入りは
ダントツで陸上部顧問の三輪先生(みっちゃん)!
穏やかで飾り気がなくて、選手それぞれをしっかり見ていて、叱るべき時は叱って
自分が高校生だった頃の夢を闇雲に押し付けることもなく
生徒を人間として信頼して伸ばしてあげられる。
こんなにいい先生なのに、こんなに素敵な男性なのに、なせ独身なのだ!?
私が嫁になってもいいぞ!(なんの立候補だ)

そんなみっちゃんがファンなのが奥田民生で
『イージュー☆ライダー』という曲の歌詞が作中に出てきます。(私もこの曲大好きさ!)

僕らは自由を 僕らは青春を
気持ちのよい汗を けして枯れない涙を
幅広い心を くだらないアイデアを
軽く笑えるユーモアを 上手くやりぬく賢さを
眠らない体を 全て欲しがる欲望を
大げさに言うのならば きっとそういうことなんだろう
誇らしげに言うならば きっとそういう感じだろう


この小説は、もうまさにこの歌詞のとおりの
大げさなんかじゃなく、こういうものがギュギュっと詰まった宝箱のような作品でした。

ラストは「えっ!もうここで終わり?」という感もありますが、
不思議とまったく不満は残りません。いいんです。
だってこの先、新二や連やチームメイトがどう走っていくのか、
健ちゃんのことも、新二の恋の行方も、どうなっていくのかすべてきちんと思い描けるから。
本を閉じても、まだまだ向こうにフィールドが広がっている、そんな感じです。
ああ青春っていいなぁ!最高っす!!(感涙)
 
 (2007年11月25日読了/☆5)
 

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
◆「サ」行の作者→佐藤多佳子    Comment(2)   TrackBack(1)   Top↑

2007.02.13 Tue
『黄色い目の魚』
「とてもとても遠い旅をして帰ってきたら、真っ先に会いたい人が出迎えてくれたみたいな」
そんな気持ち、そんな出会い。16歳の私にはまだなかった。
何を感じて過ごしていたか、もう思い出せない位遠い昔のことのような気がするけど
一生をかけて情熱を傾けられる夢と
それを実現するために欠くことのできない相手にその若さで出会ってしまうなんて・・・。
ちょっと眩しくて嫉妬するような気持ちにもなった1冊でした。

黄色い目の魚
黄色い目の魚
posted with amazlet on 07.02.13
佐藤 多佳子
新潮社

冒頭は、主人公・木島悟が10歳の時たった1度だけ会った父親との出来事が描かれます。
次の章ではもう1人の主人公・村田みのりの多感な中学生時代の描写です。
この2章は、自分の家族や周囲の人たちとの関わりを
悟とみのりがどんどん自分の言葉で語っていく感じ。
そして3章からは高校生になってクラスメイトとして出会ってからの2人。
ひとつの出来事がそれぞれの視点からニ度描かれていく形で、一気に面白さが増しました。

悟はサッカー部に所属し(うまくはないけど)仲間に恵まれ、学校ではそれなりに居心地もよい。
でも「マジになるのは恐い」。
自分がいちばんマジになりたいこと、それは絵を描くことだけど
「限界とか見えちゃいそう」なのが恐くて、父親みたいになるのが恐くて、背を向け続けている。
そして、家族や友人とうまくいかず、世の中は「キライなものばかり」だと嘆くみのり。
自分でも自分の気持ちが説明できなくってもどかしくてごちゃごちゃしてる・・・。
好きなのはイラストレーターの叔父とその飼い猫。そして絵を描く人の姿とその作品を観ること。

そんな2人が美術の授業をキッカケに、お互いの存在を意識し始めます。
多くの言葉は必要じゃなくて、魂で認め合ってるという感じ。
恋愛と呼ぶにはまだすこし拙くて、友情と呼ぶにはあまりに大きくて、
すくってもすくっても手からすり抜けていくような、けれど確かにそこにある思い。

なくしたくない、どれもこれも。どうしたら、なくさずにいられるんだろう?
どうして、なくすことばっかり考えてしまうのかな?


積み重ねていくことはまだ真剣に考えられなくて、
でもずっと信じていたいと願う気持ちがただそこにあるのです。ピュアだなぁ。

また、この2人と関係する周りの大人たちもこの作品のキーポイントです。
みのりの叔父・通ちゃんと
悟の行きつけのカフェで働く似鳥ちゃんという女性。
通ちゃんの描く似鳥ちゃんの絵。
2人の微妙な距離が、悟やみのりを揺さぶります。

悟が似鳥ちゃんに抱く憧れとも欲望ともつかない感情、そしてその末にとってしまった行動は
女性としてはかなり複雑な気持ちになったし(みのりに対して切なくなったし)
みのりがずっと失いたくなかった居場所、
でもいつか卒業しなきゃいけない通ちゃんという避難場所を
自ら離れる決意した姿は毅然としていて立派だなぁと思った。
自分の厭な部分もきちんと受け止め、自身を肯定できるようになる、
その過程が丁寧に、きっぱりと、巧みな挿話の積み重ねのなかに、描かれているのです。

「好きなことをやるんだ」
「最後は自分だけだ。誰かのせいにしたらいけない」


悟が祖父からもらったこの言葉にもすごくジーンときました。

これはただの高校生の初恋ストーリーなんかじゃ決してなくて
なんかもっと大きな、すごく遥かな未来にまで繋がっていくような
2人が人生の中でこれから永遠に守っていくであろうものが
ギュっと凝縮して見えてくるような、そんなお話でした。
ただ、最後はこれでもか!というほど“青春の王道”感が漂っていたのと
尻すぼみになっちゃったエピソード(みのりの文通の件とか悟の妹・玲美ちゃんの件とか)が残念。
続編に(著者の佐藤多佳子さんがあとがきで触れていたので)期待するとしましょう!

あと、文庫のこのカバーイラストと背中に書かれたあらすじ。
この作品の魅力を伝えるにはまったく至らず 
現役高校生(かそれ以下の世代)じゃなかったら
書店で手にとっても棚に戻したくなっちゃう感じ・・・しないですか?
(↑酷評すみません;)
読んだらきっと印象が違いますよーっ!とだけ付け加えておきます。

(2007年2月10日読了/☆4)
 

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2007.01.04 Thu
『しゃべれどもしゃべれども』
2007年。新春第1冊目となる読了本は
今まで私が興味を持ったことがなかった、落語の世界のお話でした。

しゃべれども しゃべれども
佐藤 多佳子
新潮社

あらすじ:
しゃべりのプロだろ、教えてよ―
あがり症が災いしてテニスコーチの仕事が覚束なくなった従弟・良に頼まれ
話し方教室を開くハメになった若い落語家の達也。
失恋による極度の人間不信で人との会話ができない美女・五月、
大阪から引っ越してきて関西弁が抜けず、学校で浮いた存在になっている小学生・村林、
他人に嫌われることを恐れるあまり言葉が出ない野球解説者・湯河原
といった面々までひょんなことから通ってくることになり・・・。
嘘がつけない人たちが落語を通じて織り成す人間模様を描く。
(「BOOK」データベースより抜粋、一部編集)


主人公・達也は、今昔亭三つ葉という芸名で落語の世界に生きる若手の噺家。
伝統的な古典落語をこよなく愛し、普段の生活においても着物姿で駆け回るという
生粋の江戸っ子。情熱があって、短気で、一本気な男。
そんな彼が、「言葉を口にする」ことにそれぞれの問題を抱えた4人と関わり合い、
彼らに自宅で落語を教えることになります。

まず感じたのは、この本に溢れる洒落っ気と勢い。
それは達也の性格そのままに、明るくて気持ちのいいものでした。
「馬鹿が上につくお人好し」でいつの間にか4人の生徒の事情に巻き込まれ
本職の世界ではマイペースな師匠に振り回され
家に帰れば自宅で華道教室の師範をしている祖母にこき使われる(笑)・・・
(このお婆さんが粋で気風がよくてカッコいい女性でした!)
そんな達也の心の中の葛藤や愚痴が、
洒落っ気やちょっとした皮肉の混じったまったく嫌味のない正直な言葉で綴られ、
読んでいて実に気持ちがいいのです。

4人に落語を教えることになった経緯もテンポよく
無理なくスムーズに描かれていくのですが
スムーズじゃないのがこの4人の陥っているそれぞれの問題。
「落語を教えることで解決するのか」と達也も含めた全員が半信半疑だし
落語という共通の目標がありながらも4人はなかなかまとまらない。
そして三つ葉としての達也自身も、噺家として
自分の落語とは何なのかという壁にぶち当たるのです。

とりわけ最後まで話の核となってくるのが小学生・村林。
周囲に何を言われようとも本人は関西弁を矯正しようという気はまったくなく
関西弁に誇りをもった、超意地っ張りな少年。

元プロ野球選手の湯河原は彼の学校での立場に一役買おうと野球を教える、
その姿をみた良がテニスコーチとしての自分を省みる、
そしてそんな彼らの姿を通して、達也は自分の好きな落語を
自分の声で4人に聞かせたい落語を取り戻していく、という相互効果が効いていました。

その村林少年が最後に高座に上がり、落語を披露するシーン。
クラスのボス(イジメっ子)は見にきてくれるのか、
うまく噺を終えることができるのか
こちらまでドキドキハラハラしながら、面白可笑しく読みました。
みっともないと思われても、安心して笑ってもらえたらそれでええ・・・・
という彼の心意気がとても立派に映り
私も達也といっしょにホロリと涙してしまいました。

そしてもう1つ。
女心に疎く、自分の気持ちにも鈍感な達也の恋模様。
達也のエネルギーが凍っていた彼女の心を溶かしていくんですね。
ありがちな展開ではあったものの、本当に自分の心に響く言葉を持った相手と
ぶつかり合いながらも距離を縮めていくというラストは
最後までこの本のテイストを失わず、とても自然だった気がします。

単純ですが、落語をしっかり自分の耳で聞いてみたくなりました。
号泣ではないけど、じんわりと心が温かくなる物語でした。

(2007年1月3日読了/☆4.5)

【余談】
今年の夏、TOKIOの国分太一さん主演で
この作品が映画化されるそうです。
少しイメージと違うかなぁ(国分さんだとソフト過ぎる?)気がしますが・・・
落語や周囲の人に愛情深い、粋な達也をスクリーンでも見せてほしいです!
 

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