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「 ◆「カ」行の作者→金城一紀 」 の記事一覧
2007.09.06 Thu
『映画篇』
どうしてこの人の書く物語はいつも私の心をギュっと掴んで離さないのだろう。
実は、ちょうどこの本を読んだ日にツライことがあって、感傷的になりかけてたけど 本の世界にどっぷり浸って、 鼻をグズグズ言わせながら泣いて、 読み終えたら、笑っていました。 金城さんと、愛すべき登場人物たちに感謝したい気持ちです。 今回の作品はタイトル通り、ずばり映画をモチーフにした物語。 古今東西の5本の映画タイトルがそのままつけられた、5つの中編小説集です。 私はまったく映画(特に洋画)に精通してなくて、これらの映画をどれひとつ観ていません。 そしてこの作品には、この5本以外にもなんと96本もの映画が作中に登場しますが、 やはり私が観たことのある作品はごく僅かでした・・・。 それでもまったく問題なく楽しく読めました。 * * * * * 『太陽がいっぱい』 新進作家となった主人公は、朝鮮人学校の同級生と再会し 当時の親友・龍一と映画を観ては語り合った日々を思い出す。 まったく違う道を選んだ2人はある日再会するが・・・。 『ドラゴン怒りの鉄拳』 自宅で突然夫に自殺され、それ以来引きこもっていた女性が 夫が借りたままのレンタルビデオがあると知り、返却のためにやむを得ず久しぶりに外出する。 そこで働く青年との交流により心を取り戻した女性が、夫の自殺の真相に立ち向かう・・・。 『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルーロマンス』 ろくに話したこともない隣の席の女の子から「好きな映画は何?」と聞かれた主人公。 少しずつ打ち解けていった彼女から、ある大きな計画を打ち明けられ いつの間にかその計画の片棒を担ぐことになり・・・。 『ペイルライダー』 クラスメイトに囲まれ難癖をつけられていた小学生の男の子が黒ずくめのライダー助けられる。 ヘルメットを取ると、それはパンチパーマで5頭身のおばちゃんだった。 お互いの哀しみを埋めるように、バイクで小さな旅をする2人。そしておばちゃんの正体とは・・・。 『愛の泉』 おじいちゃんの一周忌に集まった鳥越家の5人の従兄弟たち。 大好きなおばあちゃんにいつもの元気がないことを心配し、 2人が初デートの時に観たという思い出の映画を上映して元気づけようと企画を進める・・・。 * * * * * ※ここから少しネタバレかも(未読の方はご注意を!) 5篇のストーリーを繋いでいるのが 区民会館でおこなわれる『ローマの休日』上映会。 最後の『愛の泉』で5人の孫たちが企画しているのがまさにそれ!といった仕掛けです。 それぞれの登場人物たちにとって、この上映会が 一生忘れられないような大切な思い出になるんだろうなぁというエピソードが 全篇にたくさん散りばめられています。 他にも、『ドラゴン怒りの鉄拳』で出てくるレンタルビデオ屋さんとか つまらないフランス映画とか、区民会館周辺を散歩しているブルテリアとか、 微笑ましいリンクが盛りだくさんです。 『太陽がいっぱい』は男同士の友情、朝鮮人学校の描写やブルース・リーへの憧れ、 そして『ペイルライダー』はハードボイルド的(体を鍛え上げてからの)復讐劇、 これらは従来の金城作品のモチーフで、持ち味が出ていたと思う作品。 『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくはトゥルーロマンス』は 恋とも友情ともつかない、高校生の微妙な距離感みたいなのが描かれていて新鮮でした。 『ドラゴン怒りの鉄拳』は、大げさに言えば人が映画を創る意味、そして映画を観ることの意味 みたいなものが描かれていたという気がします。 芸術性とか思想とかそういうんじゃなくて、ただ人を笑わせたりスカっとさせたりホっとさせたり そういう単純さも映画の醍醐味なんだよなって改めて気付かされたような。 レンタルビデオ屋で働く青年が撮った自主映画もすごく面白そうでした。 しかし何と言っても私がいちばん好きだったのは、最後の『愛の泉』。 おばあちゃんが、おじいちゃんとの出会いや戦争体験を語るシーンでは涙させられ、 主人公の男の子(上映会準備を他の従兄弟たちから押し付けられる役)が 1人で奮闘する姿や個性的な従兄弟たちとの会話の応酬には何度も笑わされました。 (人が好くてちょっとおバカで憎めない、でもちゃんと自分の意志をもった男の子を描いたら 金城さんの右に出る人はいないんじゃないでしょうか) そして、この作品をラストにもってきた構成にも脱帽。 同じ時間に同じ場所で、それぞれの想いを胸に抱いて 登場人物たちが『ローマの休日』を観ているという光景を思い描くと、 それぞれの物語を読んだ後だからこそ、何倍も心が温かくなりました。 この本には、いや金城さんの作品にはいつも 大人になっても忘れちゃいけない大切な何かがたくさん詰まっています。 予定調和だっていいんです!いい話すぎるけどそれでもいいんです! 映画がそうであるように、笑わせてくれてスカっとさせてくれてホっとさせてくれる こういう小説こそが、私にとってずっと読み続けていきたいものなのです。 (2007年9月6日読了/☆5)
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