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「 ◆「ア」行の作者→小川洋子 」 の記事一覧
2007.06.22 Fri
『ミーナの行進』
父親を亡くして母親と2人、岡山で暮らしていた中学1年生の朋子。 母が東京の洋裁学校に通うことになり、1年間だけ芦屋に住む親戚の家に預けられることになる。 そこは見たこともないような大きなお屋敷。 そしてその家には、従妹にあたる1つ年下のミーナという少女がいた―。 この本には1年間で朋子が目にしたもの、体験したこと、感じたことが ギュっと詰め込まれています。 小さくて慎ましやかなものをひたすら温かく、 広々としてきらびやかなものをとにかく豪華に、 美しい言葉で丹念に、まるでそこにあるかのように具体的に描写していく。 小川洋子さんならではの流れるような文章にウットリしました。 いや〜本当に良かった。すごくすごくいい本でした。 まずは朋子と共に芦屋という高級住宅街の頂きに立つお屋敷のスケールと豪華さに驚き、 利発で聡明なミーナと、素直で伸びやかな朋子の可愛らしく微笑ましいやり取りや 2人が共有するキラキラした思い出たちに心が和みます。 しかしその一方で、なにひとつ不自由などないように見える お屋敷の人々(ミーナの両親、祖母、お手伝いさん、留学中のミーナの兄)が それぞれ抱える寂しさや孤独に時々心が痛んだりもするのです。 それを象徴していたのがミーナがいつもポケットに入れているマッチ箱かもしれません。 身体が弱く、自分の足で外へ出かけることもままならないミーナが 巧みな想像力でマッチ箱の絵柄から創り出す物語。それは自分だけの「世界」。 (この寓話もさすがに素晴らしかったです!) そして彼女がそのか細い手で誰よりもしなやかに、家中のランプにそっと灯すマッチの火は 家族の脆さや儚さを映し出していて、朋子もそれを敏感に感じ取ります。 けれど、ミーナの創った物語をただ1人共有することを許され、 誰からも目を逸らさずに無意識にみんなの心に飛び込んだ朋子が少しずつ成長して、 最後はこの家の空気を少し変えたような気がしました。 ちなみに、「ミーナの行進」というタイトル。 昔はその敷地を遊園地(兼動物園)として市民に開放していたというお屋敷の庭に住むカバ(!)。 なんとミーナはあのカバを自宅で飼育しているのです。(名前はポチ子) そして、長距離を歩くことも車に揺られることもできない彼女はポチ子に乗って学校に通うのです。 それがミーナとポチ子の毎日の行進。 思い描いただけで、何だかほんわかします。 芦屋での夢のような生活が1年間で終わって お屋敷がいつか跡形もなくなくなってしまうとしても、 この本の世界がいつか終わるのだと分かっていても、 やがて大人になった朋子が振り返って想うように、 この時間は損なわれずにいつまでも存在し続ける。 マッチ箱が納められた箱を開ければ、ミーナの創った物語が蘇るように この本を広げれば、朋子やミーナがポチ子たちと幸せに過ごした日々が、必ずそこに蘇る。 本の中に使われている挿絵の色使いも綺麗で、 何度でも読み返したくなるような、とても満ち足りた読書でした。 (2007年6月22日読了/☆5)
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