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「 ◆「サ」行の作者→瀬尾まいこ 」 の記事一覧
2007.09.28 Fri
『卵の緒』
表題作『卵の緒』と『7's blood』の2つの中編が収められています。 どちらも甲乙つけ難いほど良かったです。 * * * * * 『卵の緒』 自分は捨て子なんじゃないか?と疑っている小学4年生の育生。 出生の話になると、まわりの大人がどうも要領を得ないからだ。 「へその緒を見せて」と言うと、「育生は卵から生まれたんだよ」なんて暢気に答える母。 幸せに穏やかに暮らす2人の暮らしを軸に、育生の出生の秘密が明かされる。 『7's blood』 父親が愛人に産ませた腹違いの弟を母親が引き取ることに。 やってきた弟(七生)は聡明で、家事もちゃんとこなし、誰からも好かれる良い子なんだけど、 姉の七子には七生が周りの顔色を伺いながら必死に立ち回っているように見える。 そんな中、母が入院し、姉弟2人だけの暮らしが始まることになり・・・。 * * * * * この2つのストーリーのテーマは“家族”。 血が繋がってるとか繋がってないとか、そういうことじゃなくて "すっと一緒にいること"、そしてそのことを“幸福だと感じること”が根底にある気がしました。 『卵の緒』では、血のつながりのない母子関係に、 母のボーイフレンドまで登場しちゃったりして 昼ドラみたいにドロドロしてもおかしくないような設定なんだけど 不思議なほどにまったく重くならないし、暗くもない。むしろホワンと軽くて、温かい。 それは、自分の愛情にすごく正直なこのお母さんが まっすぐにあっけらかんと真実と今の気持ちを育生に伝えるからに他なりません。 血のつながりだけではない絆もある。 お互いを想う愛情もたくさんある。だからそれでいいんだよって。 本当は複雑な関係なのに、伝えることはすごくシンプルで、だからこそ心に響きました。 『7's blood』は、逆に血縁だけが持つ不思議な呼応が描かれていきます。 他人のような家族のような、何とも言えないぎこちなさから始まり、 ぶつかり合って、殻を破って、一緒にいるのがだんだん自然になっていく姉弟の描写が巧い。 特にお姉さんの七子の葛藤がリアルで、 ―弟に興味のないフリをしてるけど実は気になってたまらない感じとか 七生に素直にぶつかっていけない自分がイヤになっちゃう感じとか― ラストでお母さんが何故愛人の子である七生を引き取ったかが明らかになるところも含めて じんわりと七子の気持ちに寄り添える流れがすごく良かったです。 瀬尾まいこさんの作品は静かで心地いい。常に凪いでいる。 だけどしっかりドラマがあるんですよね。 サラっと読めるのに、後からじわーっと心に残る感覚を今回もしっかり味わいました。 (2007年9月18日読了/☆4)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『図書館の神様』
「清く正しい自分」ってなんだろ?
自分らしさの境目で、1人の女性がゆっくりと変わっていくその過程が とても丁寧に描かれている作品でした。 主人公の清(以下、キヨと書きます)は自分について、 「名前のとおり、清く正しい人間だった」と言っています。 実際、そうありたいと思って生きている人は多いかもしれないけれど、 過去の自分がそうだったと認められる人ってなかなかいないですよね。 そんなところが当時のキヨの弱さだったんじゃないかな、と思うのです。 ピンと張り詰めていて、しなることができなくて、いきなりポキっと折れちゃうような痛々しさ。 夢中になるものがあって、ただ真っ直ぐ生きてきたのに 高校最後の年に思いもよらない形でそれを取り上げられてしまったキヨ。 彼女は数年後、特に熱望するでもなく、ただなんとなく高校の国語講師となり、 本に全く興味がないのに部員がたった1名の文芸部の顧問になる。 学校の外では「不合理な恋愛」(つまり不倫)もしている。 そんなキヨの日常が、弟の拓実くんや不倫相手の浅見さん、 そして文芸部の垣内君とのやり取りを通じて描かれていきます。 キヨは弟・巧実くんについて「精神は軟弱」と言います。 「適当に嘘つきで、いい加減で、人の顔色ばかり見て、要領がよかった」と。 世間的にはこういったことを適度にできる人こそが“強い”というのに。 この巧実くんがとても姉思いで優しく、マイペースなナイスキャラの弟で、 彼が毎週のように訪れてはキヨにゆったり接してあげている。 差し入れたプリンの成分を気にするキヨに 「プリンなんて甘くてプルプルしてればいいの」と諭す。「まあね」と納得する。 何気ないやり取りがキヨの癒しとなっていきます。 そしてもう1人。文芸部の垣内君。 彼もまた、周りの目など気にせず、飄々としていてマイペースな男の子。 キヨもある意味そうなのだけど、彼女の場合のマイペースさは 「何か運動はしないの?」「どうして文芸部なの?」という、悪意はないけどストレートなもの。 それに対する垣内君は、ちゃんと受け入れるキャパシティもユーモアも持ち合わせていて びっくりするくらいオトナだ。 「文芸部は何一つ同じことをしていない。僕は毎日違う言葉をはぐくんでいる」 なんて、なんかすごくイイではないですか。 他にも垣内君の言動は、ひとつひとつが染みわたるように穏やかなのです。 一方で「不合理な恋愛」相手の浅見さん。 浅見さんとキヨは他人との距離の取り方が似ているのでしょうね。 いや、昔のキヨとは似ていたのかな。 真っ直ぐすぎるところ、それに無自覚で他人の気持ちに無頓着であるところが。 夜中に読んだ本がただ怖くて声を聞きたくて電話をかけた時の浅見さんの反応や それ以降に見せた浅見さんの引き際の対応なんかは、 たぶん昔のキヨなら同じことをするんだろうなとちょっと思いました。 (つまり私は浅見さんにはなんの魅力も感じ得なかった、 そして不倫についてはやっぱりやるせない気持ちだけが残った、ということです) とにかくキヨには、新しい世界と広い視野と感受性が必要だった。 そして弟や垣内君や生徒たちから、いろんなことを吸い取って だんだんと丸みを帯びた人間になっていくのです。ゆったりと自然なペースで。 ただ、個人的には 部活最後の日のキヨと垣内君の場面(表紙にもなってますね)は ちょっと読んでて気恥ずかしい、というか何となく2人に追いつけませんでした。 それまでの淡白な雰囲気とのメリハリだったのかもしれないけど。少し唐突で。 でも、文芸部の“朝連”の件とキヨに最後に届いた1通の手紙については、 キヨのこれからにとって、きっと救いになってくれるんだろうなと思えて すごく良かったなと思います。 うまく言えませんが、 瀬尾さんの書く本は文体に癖がなくて、それでいて個性がないわけでもなくて サラっとしてるのに冷たい感じじゃなくて 読んだ後になればなるほど、柔らかい印象を残すなぁと思いました。 (って、まだ2冊目なのにエラそうですが・・・) きっと、好きな人にはすごく好きな世界なんだろうなと思います。 それにしても、キヨが勤める高校の海が見渡せる図書室。いいなぁ!! そんな場所があったらい1日ずーっと居ついちゃいそうです。 (2007年1月17日読了/☆3.5)
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌 『幸福な食卓』
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う。」
このセリフが冒頭の1行目。 家族のあり方を問いかける小説でした。 あらすじ:― 父さんが自殺を失敗したときも、母さんが家を出たときも、朝は普通にやってきた。 そして、あの悲しい出来事のあとも ― 主人公・佐和子の中学〜高校時代にかけての4編の連作による構成。 佐和子の“少しヘン”な家族 (父さんをやめた父さん、家出中なのに料理を持ち寄りにくる母さん、元天才児の兄・直ちゃん) そして佐和子のボーイフレンド、兄のガールフレンドを中心に あたたかくて懐かしくてちょっと笑える、それなのに泣けてくる“優しすぎる”ストーリー。 (「BOOK」データベースより抜粋、編集) お互いの存在を頼りにし、気遣いもする。 けれど、綻びはずっと生じたままで、それぞれが少なからず疑問を感じ 危うさに気付いていて、常に“自分の役割”を意識している。そんな家族。 「そんなこと言われなくたって分かってるよ。ほっといて!」 なんて、無遠慮に突き放したり過剰に心配したり・・・ という距離感ではまったくなくて。 例えば冒頭のひとこと。 「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」 それを聞いた家族の反応にしても、 佐和子は疑問に思うものの、兄の直ちゃんは「まあ、いいんじゃない」って感じで 結局、それを受け入れる。それがサラサラ描かれる。 あえて、その境地に至るまでの経緯は書かれてないんだとしても 最初は正直、その実体のない感じというか生活感の薄い雰囲気に 少し戸惑ってしまいました。 あと、朝食の食卓を囲むシーンが多く、必然的に食べ物の描写が多いんだけど この家族は質のいいものをバランスよく、決められた席で、決まった時間にしっかり食べている。 そんなところにもちょっと違和感があるんです。(たぶんそれは意図的に) でも徐々にこのストーリーに引き込まれていったのは まず中学校から高校に成長していく佐和子の視点が すごくシンプルで清潔であったこと。 すごく好ましい女の子だなと思った。 ひょんなことから学級委員になっちゃって、うまくいかなくて悩む佐和子の 学校内での描写なんかはとてもリアルで、唸ってしまいました。 ボーイフレンドの大浦君も魅力的で、2人の掛け合いも可愛らしくて好き。 それから、食べ物が巧く使われているなぁと思う部分ももちろんあって。 特に、器用だけど真剣に生きられない兄(直ちゃん)の ガールフレンド・小林ヨシコの存在と彼女が作るシュークリーム。 あと、家を出た母が働く和菓子屋の桜餅をたくさん買い込んで 勢いで夕食にしちゃうシーンとか、良かった。 そうやって、日常の小さなキッカケの中から少しずつ殻を破って 家族がそれぞれ“自分の役割”という縛りから抜け出していくんです。 だけど、最後の章で予測もつかないような出来事が佐和子に降りかかります。 それはあまりに突然で、 改行された1行目を読んで思わず「えっ?」と声が出るくらいの急展開で。 賛否が分かれるところだと思うけど、私は不覚にもどっぷり涙してしまった。 それまでのエピソードがあっさりと描かれていたせいもあって 佐和子の悲しみの深さは余計に際立っていたと思うし 父さんも母さんも直ちゃんも、そんな佐和子を見守る中で苦しんでいた。 それが伝わってきた。 そしてやっぱり最後も小林ヨシコとシュークリームなんです。 してやられたなぁ(笑) 瀬尾まいこ作品は初めてだったけど シンプルで読みやすいなぁと思いました。 このシンプルさ加減に、時々置いていかれるのだけども(笑)。 他の作品も是非読んでみようと思います。 (2006年12月29日読了/☆3.5)
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